イスラム商人(読み)いすらむしょうにん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

イスラム商人
いすらむしょうにん

遠距離貿易に従事したイスラム圏のアラブ・ペルシア系の商人。イスラム商人の活動が世界的な規模にまで拡大したのはアッバース朝治下とくに10世紀以降である。イスラム法の特色をなす「高利貸法」(リバー)は利子禁止の経済倫理を基盤とし、等価交換を原則とする。ただし、不労所得である貸付からの利子を厳しく非難するが、投下資本からの商業利潤は容認する。イスラム商業において特異な発達をみた「持分資本」(キラード)の形態が後者から生まれた。商業資本をもつ有力な商人が資本の貸し主となり、貧しい商人に資本を委託して取引を営ませ、得られた利益を一定割り前(持ち分)によって両者が分配する協業の形態である。その原初形態は、資本の借り主が取引して得た利益はすべて資本主の所有となり、定額の賃金が借り主に支払われるものである。次の段階は、資本の借り主である代理人が自ら従事する企業における収益の一定割り前を持ち分として受け取るもの。さらに次の段階は、代理人の地位がさらに向上し、収益の一部を前借りし、独立採算で自分名義の商品を購入し、転売して私利を図るもの。海賊による略奪を口実として積み荷横領や利益を資本主と折半する事例もみられる。しかし、西洋のように経営と資本が分離し、株式会社の形態に一歩近づいた「ソキエタス・マリス」の段階には至らなかった。
 11世紀に著されたディマシュキーの『商業論』は当時の商人を次の3型に分類している。
(1)「屯積(とんせき)商人」は、市場価格の安いとき物資を買い占め倉庫に蓄えておき、価格の高騰したとき売却して巨利を得る大商人である。穀物などの生活必需品が屯積の対象となった。
(2)「行旅商人」は、地域間にみられる物資の価格差を利用し、遠距離貿易に従う商人である。不測の損失を被る危険にさらされた行旅商人を宿泊させ、保管料をとって積み荷を倉庫に預ってやり、売買の仲介をする「邸店(ていてん)」が発達した。
(3)「輸出商人」は、宰領をつけて遠隔地の代理人に大規模な物資の輸出を行う豪商である。これらの商取引がおもな目標とした定期市その他における取引決済には貴金属貨幣、地金とともに為替(かわせ)手形(スフタジャ)、小切手(チャツク)などの委託証券が用いられた。
 海上企業の形態としては、舶商が船長を兼ねた一杯船主としての小規模なもの、複数商人が合資で船を建造し船長以下を雇って協業するもの、単独で積み荷、船舶を艤装(ぎそう)し遠距離貿易を行う大規模なものがあった。[佐藤圭四郎]
『佐藤圭四郎著「ムスリム商人の活動」(『岩波講座 世界歴史 8 中世 2』所収・1969・岩波書店)』

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