イトメ(その他表記)Tylorrhynchus heterochaetus

改訂新版 世界大百科事典 「イトメ」の意味・わかりやすい解説

イトメ
Tylorrhynchus heterochaetus

多毛綱ゴカイ科の環形動物。別名ゴカイ,アカグダ。日本各地に分布し,海岸の河口付近からかなり上流域までの砂泥中にすむ。体はほぼ一様の太さで長さ10~20cm,体節数は300内外。体の背面前部は緑褐色で,中央部は紅色。ふだんは体内にあって,餌をとらえるときにだす吻(ふん)には他のゴカイ科の種類がもつキチン質の小顎片はなく,かわりに瘤状の肉質突起をもっているので,容易に区別できる。いぼ足は比較的小さく,長複剛毛と短複剛毛からなる剛毛束をもつ。雌雄異体。10~11月の大潮の夜に雌雄の体の前方1/3がちぎれ,生殖物を充満させて泳ぎだし,生殖群泳する。このような生殖型個体をバチウキコヒルエバまたは日本パロロと呼んでいるが,眼が著しく大きくなり,いぼ足も幅広くなって泳ぎやすい形に変形している。生殖型個体が泥の中より浮上することをバチ抜けと呼ぶが,このようなときは魚が飽食するので釣餌に集まらない。ボラセイゴハゼアジ,キス,スズキ,クロダイなどの釣餌になる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトメ」の意味・わかりやすい解説

イトメ
いとめ / 糸目
[学] Tylorrhynchus heterochaetus

環形動物門多毛綱遊在目ゴカイ科に属する海産動物。別名ゴカイ、アカグダなど。日本各地に分布し、内湾の泥地からかなり川をさかのぼった場所まで分布する。虫体は細長く20~30センチメートル、環節数は約300個。体の前部は緑褐色で中央部は紅色。ゴカイ科の大部分の種類は、吻(ふん)に多くの小顎片(しょうがくへん)をもっているが、イトメにはいくつかのこぶのような肉質突起がある。目は4個あって比較的大きい。秋になると雌雄が成熟して、体の前部に生殖物を充満させる。そして10~12月の新月の数日後に一斉に泥中から抜け出し、水面に浮上して群泳し、産卵、受精する。この状態のものをバチ、ウキコ、ヒル、エバ、または日本パロロとよび、形態的には目が大きく突出し、後部のいぼ足が幅広くなって泳ぐのに便利になる。ボラ、キス、スズキ、クロダイ、ハゼ、アジ釣りなどの餌(えさ)にされている。

[今島 実]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イトメ」の意味・わかりやすい解説

イトメ
Tylorrhynchus heterochaetus

環形動物門多毛綱遊在目ゴカイ科。体長 20cm内外,体節数は 300ほど。吻の上には他の種類のようなキチン質の顎片がなく,代りに瘤状の肉質突起が散在する。疣足 (いぼあし) の足舌は短い。 10~11月の新月または満月の夜,体の前3分の1がちぎれて泳ぎ出して生殖群泳をする。雌雄異体。泳ぎ出す部分は「バチ」または「日本パロロ」と呼ばれ,精子または卵で体内が満たされている。釣餌として用いられる。日本,中国に分布する。 (→パロロ )

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百科事典マイペディア 「イトメ」の意味・わかりやすい解説

イトメ

多毛綱ゴカイ科の環形動物。体長10〜20cm,体節数は約300。4個の眼は非常に大きい。日本各地に分布し,ふつう河口や汽水湖の砂泥中にすむが,秋になると生殖のために海面に浮かび群泳する。これをバチ,ウキコ,日本パロロなどと呼ぶ。ボラ,ハゼ,アジ釣などの餌に用いる。
→関連項目ゴカイ

イトメ

イトミミズ

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世界大百科事典(旧版)内のイトメの言及

【イトミミズ】より

…日本全国に分布する。下水溝などの泥の中に群生しているので,泥の表面が桃色になるためモモホオズキと呼ばれるほか,ボッタ,イトメなどとも呼ばれる。体は糸状で長さ5~10cm,体節数85~100。…

【月周リズム】より

…フロリダ地方の浅海底に生息するイソメ科のEunice fucataは6月下旬から7月下旬の下弦の月のころに生殖群泳を行い,これは大西洋パロロpaloloと呼ばれ古くから知られている。日本産のイトメも10月から11月の新月と満月の数日後に生殖群泳を行う。南カリフォルニアの砂浜には3月から9月にかけて新月や満月の数日後,夜の大潮に乗ってグルニオンgrunionというトウゴロウイワシ科の魚が大群をなして産卵にくる。…

※「イトメ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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