ウィトキン(読み)うぃときん(英語表記)Joel-Peter Witkin

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ウィトキン
うぃときん
Joel-Peter Witkin
(1939― )

アメリカの写真家。ニューヨーク市ブルックリンに生まれる。ロシア系ユダヤ人の父親とイタリア系カトリックの母をもち、父親はウィトキンが幼い時に家を出ており、ウィトキンの作品のもつ喪失感や不安感はその生い立ちにも由来している。1955年から写真を撮りはじめ、1957年、高校生の時に撮ったスナップが、MoMA(ニューヨーク近代美術館)写真部長エドワード・スタイケンによって同館のコレクションに選ばれ、写真の道へと進む契機となる。その後写真の引伸ばしの仕事をしながら、1961年ニューヨークのクーパー・ユニオン夜間部に通い、彫刻を学ぶ。1961~1964年陸軍写真班に所属、テキサス、ヨーロッパを回る。陸軍写真班での任務は、演習時の事故や自殺現場の撮影を主とする軍隊内の死の記録であった。軍隊除隊後、美術品撮影等に従事する。1970年から再びクーパー・ユニオンで彫刻を学び、1974年同校を卒業する。写真を学ぶために、1975年アルバカーキのニュー・メキシコ大学大学院修士課程に進学し、1976年芸術修士号を取得する。同大学では、写真の実験的な試みがなされており、彼の才を見いだした後のサンフランシスコ近代美術館写真部長バン・デレン・コークVan Deren Coke(1921―2004)や、ネガに傷をつける「キャンセレーション」のシリーズを制作していたトーマス・バロウThomas Barrow(1938― )らが師となった。ウィトキンはこの地で、一連のフリークス等の写真を撮りはじめた。
 ウィトキンは初期に彫刻をつくっており、そこに写真のコンセプトがすでに表れている。頭部に数十本の釘を打ち込んだキリスト像(1971~1974)と、巨大な乳房をもつ女性のトルソ(1970)は、「神」と「女性」というウィトキンの重要なモチーフを形成していく。「生と死」のテーマを、生命を生み出し死をもたらす「神」と、死すべき存在を生み出す「女性」によって表している。この2作品はまた、釘を打ち込むサディスティックな行為と分断された肉体という面をもち、自己犠牲と残虐性を併(あわ)せもつ、ウィトキンのその後の作品の原型でもある。
 やがて実際の肉体と写真を使って、このコンセプトが展開される。画家や彫刻家の作品はいかに素晴らしくとも想像力の産物でしかないが、「肉体は、生きていようと死んでいようと、神の創造物」だとウィトキンは考える。また写真は「最も迫真的なリアリティの表象を生み出す永遠の記録の鏡」であり、われわれの時代が初めてもち得た表現手段とみなした。
 ウィトキンの作品の被写体として登場するのは、小人・シャム双生児・両性具有者などのフリークス、解剖用の死体、動物の死骸などである。それらの被写体が、周到にしつらえられた絵画のモチーフさながらに写し出される。犬の脇腹に野菜を詰めた「豊饒の犬」、ベラスケスの『ラス・メニーナス』を模した無足の少女、医学研究用に保存されている切断された老人の左右の頭部による「キス」(1981)等である。
 彼の制作過程は、構想を練るドローイングに始まる。条件に合うモチーフを時間をかけて探し構成する。撮影にはローライフレックス6×6センチのカメラしか使わず、一定の距離をもって、静物の撮影をしていく感覚で撮っていく。ネガを乳剤で、またスクラッチによって直接加工し、最後に色調を調整し古色を帯びさせる。暗室の中で脳裏に描き出した世界を入念に築き上げていくのである。
 ウィトキンの作品は肉体への固執と、真摯(しんし)で正統的な芸術追求の姿勢に貫かれている。さらにこの二つの要素に、年代が下るにつれ、絵画からの引用等の演出性が加味されていく。彼は人間の心の暗部を暴き出し、その恐怖と陶酔を写真で表現した、グロテスクな耽美主義者といえる。そのため、しばしばセンセーショナルに扱われた。
 1976~1981年ニュー・メキシコ大学の写真講師となり、1981年以降は、多数の大学等で講演を行う。1985年サンフランシスコ近代美術館で個展が開催された。[蔦谷典子]
『Joel-Peter Witkin, V. D. Coke Joel-Peter Witkin; Forty Photographs (1985, San Francisco Museum of Modern Art, San Francisco) ▽Joel-Peter Witkin, A. Dupuy, A. Saura, W. Stemmer Joel-Peter Witkin (1989, Museum fr Fotografie und Zeitkunst, Bremen) ▽Joel-Peter Witkin, Germano Celant Joel-Peter Witkin (1995, Scalo, New York)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

関連語をあわせて調べる

今日のキーワード

ビル風

高層建築物の周辺でみられる、建物による風の乱れをいう。風向の変化のほかに風速の強弱によって表される。一般には、高層ビルの周辺で吹く強い風をさすことが多い。 風の強くなる場合として次の三つがある。(1)...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android