脳底部で動脈が輪状に連なっている部分をいい、大脳動脈輪ともよばれる。
[加川瑞夫]
脳に栄養を送る動脈には、頸部(けいぶ)の左右にある内頸動脈系と、同じく左右にある椎骨(ついこつ)動脈が頭蓋(とうがい)内で合して脳底動脈となる椎骨脳底動脈系の2系統があり、それぞれ支配領域を異にする。ウィリス動脈輪は、この両系統の動脈間の副血行路として役だっている。すなわち、脳底部のトルコ鞍(あん)の近くで、直径1~2ミリメートルの動脈により互いに交通しあい、ちょうど環状線のように輪状となっている。この吻合(ふんごう)のため、1系統または2系統の血管系に血流障害がおこっても、他系統から交通しあっている動脈を通じて血液が流入し、重篤な脳虚血に陥らないように、ある程度代償されるようになっている。たとえば、頭を横に傾けると片方の内頸動脈や椎骨動脈が閉塞(へいそく)するようなことがおきても、脳虚血症状(一過性の片麻痺(へんまひ)や意識障害など)がみられないのはこのためであり、逆に脳虚血症状が現れる場合はウィリス動脈輪が正常に機能していないことが疑われるわけである。
なお、これを発見したのはイタリアの解剖学者で、ベサリウスとともに活躍し卵管の記載でも知られるファロピウスGabriel Fallopius(1523―62)といわれ、1664年にイギリスの解剖学者T・ウィリスがその臨床的意義について記載したとされる。
[加川瑞夫]
ウィリス動脈輪閉塞症は、脳底部の血管撮影像で、煙のようなもやもやした特徴のある像がみられ、1956年(昭和31)に工藤達之により初めて報告された。その後モヤモヤ病moyamoya diseaseともよばれるようになった。病因など不明な点が多く、名称の統一もまだされていない。年間100万人に1人の発生率で、まれな疾患である。日本人にとくに多く、外国人には少ないが、アジアを主として全世界に分布する疾患である。また、男女比は2対3でやや女性に多い。15歳未満の幼小児を侵す若年型と、30~40歳代に多い成人型があり、特定疾患(難病)に指定されている。小児ではTIA(一過性脳虚血発作)を主とする虚血ないしは、てんかん発作で発症し、成人では脳内出血で発症する。
この疾患の特徴は、左右両側の内頸動脈がその末梢(まっしょう)部に相当するウィリス動脈輪の近くで閉塞しており、脳底部に異常な細動脈が網状に現れ、それが血管撮影像ではもやもやした煙のようにみえることである。したがって、前述のような脳虚血に伴う諸症状がみられるのが普通である。しかし、脳底部にみられる細網血管は脆弱(ぜいじゃく)で破綻(はたん)しやすく、出血発作をおこすことも少なくない。このため、症状も脳虚血発作に頭蓋内出血発作が加わり、多彩なものとなる。まだ有効な治療法が確立されておらず対症療法が主となるが、最近、脳の虚血病巣に対して手術的に血管吻合術などを行い、積極的に血流を増加させる試みもみられ、かなりの治療効果が期待されている。すなわち、皮質、皮質下の血流が減少していることからSTA―MCAバイパス(浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術)のよい適応と考えられる。バイパスを行いうる血管のない場合には、硬膜の血管(EDAS)、側頭筋の血管(EMS)などを直接脳表に転置し血管の新生を待って外頸動脈系の血流を内頸動脈に導こうとする方法が行われる。これらの方法によって虚血を改善することができ、基底核部異常血管へのストレスを軽減して、出血をも予防することができると考えられている。
[加川瑞夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一つは内頸動脈であり,他の一つは椎骨動脈である。これら二つの系統の動脈は,頭蓋腔に入ると脳底で互いに連絡吻合(ふんごう)して動脈輪(ウィリス動脈輪circle of Willis)を形成する。脳を栄養する動脈はすべてこの共通の動脈輪から起こる。…
※「ウィリス動脈輪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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