ウォーク(読み)うぉーく(英語表記)Herman Wouk

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウォーク」の意味・わかりやすい解説

ウォーク
うぉーく
Herman Wouk
(1915―2019)

アメリカのユダヤ系作家ニューヨークに生まれ、コロンビア大学卒業後、放送台本作家となる。第二次世界大戦中、海軍士官として掃海艇に乗り組み、太平洋戦線で勤務した。その後、創作専念。広告業界を風刺した『オーロラ夜明け』(1947)、1920年代のニューヨークを舞台に、共感をもって子供を描いた『町の子』(1948)ののち、『ケイン号の反乱』(1951)が激賛され、有名になった。これは海軍での体験をもとに、無能な偏執狂艦長に対する掃海駆逐艦乗組員の反乱の顛末(てんまつ)を描いたもので、ベストセラーになり、ピュリッツァー賞を受賞、作者自身が劇化した『ケイン号反乱の軍法会議』(1954)も好評を博した。芸能界を夢みるニューヨークのユダヤ娘が結婚して落ち着くまでを描いた『マージョリー・モーニングスター』(1955)、南部の若い作家の成功と堕落を扱った『ヤングブラッド・ホーク』(1962)、カリブ海の観光地を舞台にしたコメディカーニバルを止めるな』(1965)以後、綿密な調査をふまえた歴史小説に関心が移り、海軍士官を主人公に、豊富な資料を生かし、歴史的人物を登場させ、第二次世界大戦を描いた大作戦争の嵐(あらし)』(1971)と『戦争と記憶』(1978)はベストセラーとなり、テレビ映画化された。ユダヤ系アメリカ人一家の歴史をたどる『内と外』(1985)、ユダヤ人一家を中心にイスラエル共和国建国を描いた『希望』(1993)と『栄光』(1994)などがある。そのほか、戯曲には『反逆者』(1949)、映画台本を小説化した『スラッタリーのハリケーン』(1956)、1949年に書き、19年後に発表した空想科学小説『ロモコメ報告書』(1968)など。評論は『自然のあり方』(1957)、信者としてユダヤ教を語った『これぞわが神』(1959)、『生き抜く意志――これぞ人類の伝承』(2001)がある。

[井上謙治]

『古川百合訳『町の子』(1954・新思潮社)』『大久保康雄訳『マージョリーの短き青春』(1958・新潮社)』『木島始・荒木のり子訳『月で発見された遺書――ロモコメ報告書』(1976・創樹社)』『島野信宏訳『ユダヤ教を語る』(1990・ミルトス)』『浅田圭訳『裏切りの空』(徳間文庫)』『新庄哲夫訳『ケイン号の叛乱』3冊(ハヤカワ文庫)』『邦高忠二訳『戦争の嵐』5冊(ハヤカワ文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウォーク」の意味・わかりやすい解説

ウォーク
Wouk, Herman

[生]1915.5.27. ニューヨーク,ニューヨーク
[没]2019.5.17. カリフォルニア,パームスプリングズ
アメリカ合衆国の小説家,劇作家。コロンビア大学卒業後,しばらくラジオの脚本を執筆,第2次世界大戦勃発とともに海軍士官として軍務についた。ニューヨークの広告業を皮肉な調子で描いた処女小説『オーロラの夜明け』Aurora Dawn(1947)以下,ユーモラスな筆致の『町の子』The City Boy (1948),大戦中の海軍生活に取材したベストセラー『ケイン号の叛乱』The Caine Mutiny (1951,ピュリッツァー賞,1954映画化),舞台を夢みるユダヤ娘を描いた『マージョリーの短き青春』Marjorie Morningstar (1955,1958映画化),『戦争の嵐』The Winds of War (1971)などのほかに,戯曲『反逆者』The Traitor (1949),『ケイン号事件軍法会議』The Caine Mutiny Court-Martial (1954),ユダヤ教の教義を論じた『ユダヤ教を語る』This is My God (1959)などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ウォーク」の意味・わかりやすい解説

ウォーク
Herman Wouk
生没年:1915-

アメリカのユダヤ系作家。ニューヨーク市生れ。1934年コロンビア大学卒業,第2次大戦中は海軍に勤務。戦後《オーロラの夜明け》(1947)で作家としてデビュー,第2次大戦中の掃海艦上の反乱を扱った《ケイン号の叛乱》(1951)でピュリッツァー賞を受賞し,ベストセラー作家となる。1939年から真珠湾攻撃にかけての,海軍軍人一家を中心として激動の時代を描いた《戦争の嵐》(1971)は続編《戦争の思い出》(1978)とともにベストセラーとなり,テレビドラマ化もされた。なおユダヤ教の解説書《これぞわが神》(1959)がある。
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