ウサギ(読み)うさぎ(英語表記)hare

翻訳|hare

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウサギ」の意味・わかりやすい解説

ウサギ
うさぎ / 兎
hare
rabbit

広義には哺乳(ほにゅう)綱ウサギ目に属する動物の総称で、狭義にはそのうちのウサギ科の総称であるが、一般には、さらにそのうちのノウサギ亜科に属する仲間をよぶことが多い。ウサギ類という総称でもよばれる。ウサギ目Lagomorphaは最近まで齧歯目(げっしもく)Rodentiaのなかの亜目とされていたが、齧歯類が4本の切歯(門歯)、すなわち、のみ歯があるのに対して、上あごの大きな1対の切歯の背方に小形に退化した1対の切歯が余分にあることを最大の特徴として区別され、現在では別の目とされている。ウサギ目にはナキウサギ科Ochotonidae(英名パイカ)とウサギ科Leporidaeがあり、ウサギ科にはムカシウサギ亜科Paleolaginaeとノウサギ亜科Leporinaeがある。

 一般にウサギとよばれているノウサギ亜科にはノウサギやカイウサギが含まれる。イエウサギの名でもよばれるカイウサギrabbitはこの亜科に属するが、いわゆるノウサギhareと属を異にし、本来ヨーロッパ中部および南部、アフリカ北部にかけて生息していたアナウサギrabbit(ヨーロッパアナウサギOryctolagus cuniculus)を馴化(じゅんか)したもので、世界各地で改良、飼育されている。

[澤崎 徹]

野生のウサギ

ノウサギ類は、アナウサギ類に比べ前肢がやや長いため、座ったときの姿勢が斜めになる。穴を掘らずに地上に巣をつくり、そこに子を産む。生まれたばかりの子は、毛が生えそろっていて、目も見え、すぐに歩き回ることができる。ノウサギ類は、オーストラリア、ニュージーランドなどを除き、世界中ほとんどの地域でごく普通にみられる。たとえば、北極圏やアラスカにはホッキョクノウサギLepus arcticusやアラスカノウサギL. othusが、また、ヨーロッパに共通のノウサギとしてヨーロッパノウサギL. europaeusが分布するなど、多種が広く生息する。日本には、北海道にエゾユキウサギエゾノウサギL. timidus ainuがいるほか、ノウサギL. brachyurusの4亜種、すなわち、本州の日本海側と東北地方にトウホクノウサギ(エチゴウサギL. b. angustidensが、福島県の太平洋沿岸地方より南の本州、四国、九州地方にキュウシュウノウサギL. b. brachyurusが、さらに隠岐(おき)島と佐渡島に、それぞれオキノウサギL. b. okiensisとサドノウサギL. b. lyoniがあり、合計5種が生息する。エゾユキウサギと他の4種とは異なるノウサギ亜属に属し、エゾユキウサギは、ヨーロッパ、シベリア、モンゴル、中国東北部、樺太(からふと)(サハリン)など亜寒帯から寒帯にかけて広くすんでいるユキウサギの亜種である。ユキウサギは本種、亜種とも冬になると被毛が純白になる。一方、別の亜属に分類されるトウホクノウサギ、サドノウサギも冬毛は純白になるが、白くならないキュウシュウノウサギ、オキノウサギと同一グループとされる。世界でこれと同じ亜属に属するウサギは、中国東北部の東部とウスリー地方の狭い地域に分布するマンシュウノウサギL. mandchuricusだけである。

 アナウサギ類は、ノウサギ類に比べ前肢が短いため、座ったときの姿勢が低く、体が地面と平行になる。さらにアナウサギの名のとおり、地中に穴を掘って巣をつくり、群れをなして生活する。この地下街は、「ウサギの町」と称されるほど大規模な巣穴となる。妊娠した雌は分娩(ぶんべん)用の巣をここにつくり、生まれた子は、目が開いていず、赤裸であることもノウサギと異なっている。

 ローマ人たちは、壁に囲われた庭に、とらえたヨーロッパアナウサギを飼育していた。アナウサギはノウサギと異なり、このような人為的な環境下でも子を産み育てるから、数は増え、食肉用として飼育された。中世になると、帆船によって広く世界の各地に運ばれていった。これは、航海中の食糧を求める手段として、各航路の島々にヨーロッパアナウサギをカイウサギとして土着させるためであった。一般的環境、つまり気候や、餌(えさ)となる植生が適し、さらに害敵(肉食獣など)がいない土地では急速にその数を増していった。オーストラリア大陸には元来アナウサギ類は生息していなかったが、1859年にビクトリア州に導入されると、たちまちその数を増やし、1890年ごろには、この地域におけるアナウサギの数は2000万頭と推定されるようになった。アナウサギの餌は草や若木の樹皮、畑の農作物であるから、被害は膨大なものになり、手に負えぬやっかい者になった。害を防ぐため、さまざまな手段が実施されたが、効果はなかった。1950年ごろからウサギの粘液腫(しゅ)ウイルス(全身皮下に腫瘤(しゅりゅう)を形成し、死亡率が高く、伝染力も強い)を用いた駆除法が成功し、近年はその被害も少なくなってきている。

 日本には、奄美(あまみ)大島、徳之島特産のアマミノクロウサギPentalagus furnessiがおり、特別天然記念物に指定されている。穴を掘って巣をつくるところはアナウサギ類に似るが、耳の長さは半分以下で、体全体もずんぐりしている。アマミノクロウサギは「生きている化石」とよばれる動物の1種で、近縁としてメキシコ市近くの山にいるメキシコウサギRomerolagus diazziとアフリカ南部にいるアカウサギ属のプロノウサギPronolagus crassicaudatusなどとともにムカシウサギ亜科Palaeolaginaeに分類されている。

[澤崎 徹]

家畜としてのカイウサギ

カイウサギは、ヨーロッパアナウサギを馴養することに始まった。その後、大きさ、毛色、毛の長さ、毛の手触りなど、多様な変異を利用し、選抜淘汰(とうた)を繰り返して、多くの品種を作出してきた。用途によって、毛用種、肉用種、毛皮用種、肉・毛皮兼用種、愛玩(あいがん)用種に分けられる。

 毛用種としてはアンゴラAngoraがよく知られている。トルコのアンゴラ地方が原産といわれ、イギリスやフランスで改良されたものが現在飼養されている。体重は、前者が2.7キログラム、後者が3.6キログラムである。全身が長い毛で覆われており、年に3~5回の剪毛(せんもう)で約500グラムの産毛量がある。白色毛がもっとも商品価値が高く、高級な織物や毛糸に加工される。

 肉用種としてはベルジアンノウサギBelgian hareや、フレミッシュジャイアントFlemish giantなどがある。前者はベルギー原産で体重3.6キログラム、ノウサギに似た毛色をしているのでこの名がある。後者は「フランダースの巨体種」の名のとおりフランス原産で、体重は6.7キログラムにもなる。毛色は鉄灰色、淡褐色などさまざまである。

 毛皮用種としてはチンチラChinchillaやレッキスRexなどがある。両者ともフランス原産。前者は、体重3キログラムほどの小形種、4.5~4.9キログラムの中形種、6.1~6.5キログラムの大形種がある。毛色は、南アメリカ産の毛皮獣である齧歯類のチンチラに似て黒と白の霜降り状で、息を吹きかけると黒と白の輪状の紋が現れる。後者は体重3.5~4キログラムで、毛はきわめて短く直立しているので、ビロードのような感触があるため、高級毛皮の代用品として珍重される。毛色には白色、黒色など多種があるが、カスターレッキスのものはカワウソの毛皮に似る。

 兼用種は肉・毛皮両方を目的につくられた。兼用種にはニュージーランドホワイトNew Zealand whiteや日本白色種がある。前者はアメリカでつくられた白色種で、体重4.5~5キログラムで前躯(ぜんく)がよく発達し、肩幅と腰幅の差が少なく角形の体形を示す。後者は日本でもっとも多く飼育されている白色種である。起源は明らかではないが、おそらく明治初期に輸入された外来種との交配によってつくられたアルビノと考えられている。そのため以前は地方によって体形、大きさに差があり、大形をメリケン、中形をイタリアン、小形を南京(ナンキン)とよんでいたが、第二次世界大戦後統一され、体重は生後8か月で4.8キログラムを標準とする。肉と毛皮との兼用種として改良されてきたため、毛皮の質と大きさの点で優秀な品種である。

 愛玩用種としてはヒマラヤンHimalayanやダッチDutchがある。前者はヒマラヤ地方原産といわれており、体重1.3キログラムの小形で、白色毛に、顔面、耳、四肢端が黒色の毛色である。後者はオランダ原産で、黒色、青色、チョコレート色などの被毛であり、胸の周りには帯をかけたような白色毛がある。体重は2キログラム前後である。

[澤崎 徹]

飼養

飼育箱は、幅、奥行が60センチメートル、高さが最低40センチメートルぐらいのものを使用し、ここに1頭ずつ飼育する。木製や金属製を用いるが、ウサギは大門歯が持続的に成長し、物をよくかじるから、木製の場合は頑丈につくる。床面は、ウサギを健康かつ清潔に飼育するために簀子(すのこ)にして、排出物が下に落ちるようにつくる。いずれにせよ、清掃が容易で清潔さを保てる点から、金属製の飼育箱が優れている。飼育法としてほかには、放し飼い、群れ飼いなどもある。

 餌(えさ)は青草、乾草、野菜、穀類を与える。水は自由に飲めるようにする。とくに乾草給与時や、夏季、分娩後や哺乳中には水分が不足しやすい。ウサギは体に比べて大きな胃と盲腸があって大食である。成長期には1日に体重の1~3割の餌を食べる。ウサギの奇妙な習性に食糞(しょくふん)がある。普通にみられる糞と、ねばねばした膜に包まれた糞を交互に排出するが、後者が排出されると、自分の口を肛門(こうもん)に近づけて吸い込み、かまずに飲み込む。この糞を食べさせないようにすると、しだいに貧血症状を呈し、やがて死亡する。これからもわかるように、排出物というよりも餌といえるほどにタンパク質やビタミンB12が多く含まれていて、ウサギの健康維持にたいへん役だっている。

 ウサギをつかむときには、背中の真ん中よりやや前方の皮を大づかみにする。両耳を持ってつり下げるようなことをしてはいけない。粗暴に扱ったり、苦痛を与えると、普段鳴かないウサギも、キイキイと甲高い声を出す。おそらく恐怖のための悲鳴であろう。

[澤崎 徹]

繁殖

ウサギは生後8か月から繁殖に用いられる。野生のウサギには繁殖季節があるが、カイウサギには認められない。また、自然排卵をしないで交尾刺激によって排卵が誘発される。この型の排卵はネコやイタチ類にみられる。妊娠期間は31~32日で、1回の分娩に6、7頭の子を産む。母親は分娩後、非常に神経質になり、興奮して子を食い殺すこともあるので安静にしておく。ウサギの乳汁は牛乳より栄養に富み、12.3%のタンパク質、13.1%の脂肪を含むから、赤裸の子も早く育つことができ、6~7週齢で離乳する。

 ウサギは暑さに対して弱いばかりでなく、病気に対する抵抗力が一般的に弱い。とくにかかりやすい病気として、原虫によるコクシジウム症、細菌による伝染性鼻炎、ぬれた草(とくにマメ科植物)の多食による鼓張症などがある。

[澤崎 徹]

利用

日本において家畜としてウサギが飼養されるようになったのは明治時代からで、中国やアメリカなどから輸入され、当初は愛玩用として飼われていた。防寒具としての毛皮、食用としての肉が軍需用物資として使用されるようになって急激に飼育数が増大した。これはアメリカへの毛皮輸出を含めた1918年(大正7)の農林省の養兎(ようと)の奨励による。飼育数増大とともに各地で毛皮・肉兼用種への改良が行われ、現在日本白色種とよばれるものができた。日本におけるウサギの飼育頭数は、軍の盛衰と運命をともにし、一時は600万頭も飼育されていたが、第二次世界大戦の終戦とともに激減した。なお、日本ではウサギ類を古来「1羽、2羽…」とも数えるが、これは獣肉食を忌み、鳥に擬したためである。

 毛皮は軽く保温力に富むのでオーバー、襟巻などに、アンゴラの毛はセーターや織物になる。肉もよく利用されるが、ほとんどは輸入されたものである。利用面で近年忘れられないことは、医学、生物学、農学などの研究に供試されることで、年間数十万頭が利用されている。

[澤崎 徹]

食用

ウサギの肉は食用としてもよく用いられる。野ウサギの肉はやや固く一種の臭みがあるが、家ウサギの肉は柔らかく、味も淡白である。ウサギ肉のタンパク質は、粘着性や保水性がよいので、プレスハムやソーセージのような肉加工品のつなぎとしてよく使われた。ウサギの肉は、鶏肉に似ているので、鶏肉に準じて各種料理に広く用いることができる。ただ、においにややくせがあるので、香辛料はいくらか強めに使うほうがよい。栄養的には、ウサギの肉はタンパク質が20%と多く、反対に脂質は6%程度で他の肉より少ない傾向がある。

河野友美・大滝 緑]

民俗

『古事記』にある「因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)」の説話や、『鳥獣戯画』に描かれているおどけたウサギなど、古来ウサギは人間と密接な関係をもつ小動物と受け取られてきた。「かちかち山」や「兎と亀(かめ)」などの動物説話が広く知られている一方、一見おとなしそうなウサギが逆に相手をだます主人公となるような類話も少なくない。その舞台を語るのか、赤兎山(あかうさぎやま)、兎平(うさぎだいら)、兎跳(うさぎっぱね)など、ウサギにちなむ地名が全国各地に分布する。また時期や天候の予知にも関係し、山ひだの雪形が三匹ウサギになると、苗代に籾種(もみだね)を播(ま)くとする所や、時化(しけ)の前兆となる白波をウサギ波とよんでいる所が日本海沿岸に広くみられる。ウサギの害に悩む山村の人々は、シバツツミとよばれる杉葉を田畑の周囲に巡らしたり、ガッタリ(水受けと杵(きね)とが相互に上がったり落ちたりする仕掛けの米搗(こめつ)き臼(うす))の発する音をウサギ除(よ)けとした。雪国の猟師たちは、新雪上に描かれたテンカクシ、ミチキリなどと特称される四肢の跡を目安に狩りをしたが、なかでも、棒切れあるいはワラダ、シブタなどといわれる猟具をウサギの潜む穴の上へ投げ飛ばし、空を切る音と影の威嚇(いかく)効果によって生け捕りにする猟法は、注目に値する。また、ウサギは月夜の晩に逃げるとか、その肉を妊婦が食べると兎唇(としん)(口唇裂)の子が生まれる、などの俗信も少なくない。

[天野 武]

 ヨーロッパ、とりわけフランスでは、家畜ウサギは食用としてニワトリと並び賞味されているが、一方の野生のノウサギは、世界各地で民話の登場人物として親しまれてきた。そのイメージの多くは、すばしこくて少々悪賢く、いたずら好きだが、ときには人にだまされるという共通性をもっている。アフリカ(とくにサバナの草原地帯)の民話では、ウサギはトリックスターとして活躍し、ハイエナなどがウサギにかつがれる。ナイジェリアのジュクン人の民話では、ウサギは王の召使いとして人々との仲介者となったり、未知の作物や鍛冶(かじ)の技術を人々にもたらす文化英雄の役割を演じるほか、詐術によって世の中を混乱させたり、王の人間としての正体を暴いてみせたりする。またいたずら者のウサギは「相棒ラビット」などのアフリカ系アメリカ人の民話にも生き続けている。

[渡辺公三]

『ワイスブロス、フラット、クラウス編、板垣博他訳『実験用ウサギの生物学――繁殖、疾病と飼育管理』(1978・文永堂)』『高橋喜平著『新版 ノウサギの生態』(1982・朝日新聞社)』『斉藤久美子著『うさぎ学入門』(1998・インターズー)』『大竹隆之・桜井富士朗監修『くわしいウサギの医・食・住』改訂新版(2004・どうぶつ出版)』『スタジオ・ニッポニカ編『百分の一科事典 ウサギ』(小学館文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ウサギ」の意味・わかりやすい解説

ウサギ (兎)

長い耳と植物をかじることに適した長大な門歯をもつウサギ目Lagomorphaに属する哺乳類の総称。ウサギ目は,以前はネズミやリスなどと同じ齧歯(げつし)目の1亜目重歯類とされたこともあるが,血清学的に齧歯目とは関係が遠いことが明らかになり,形態学的にも大きく異なる点があることから,現在は独立した目とされている。南極大陸とオセアニア,マダガスカルおよび東南アジアの多くの島を除く全世界に広く自然分布する。

 ウサギ目の歯は齧歯目に似るが,長大な上下1対の門歯のほかに,上あごの内側に小さな門歯をもう1対もつのが特徴である。門歯は終生のび続け,完全にエナメル質で覆われている。臼歯(きゆうし)は根をもたない。すべて地上生で,おもに草本類,ときに若木の樹皮などを食べる。食べた食物は,初めは盲腸を通らず,やわらかい糞の形で排泄されるが,ウサギは肛門に口をつけてこれを再び飲み込み,最大限に消化吸収された後,固い糞が排泄される。

 ウサギ目はナキウサギ科とウサギ科に分けられ,ウサギ科はさらにムカシウサギ亜科とウサギ亜科とに分けられる。

 ナキウサギ科は原始的な小型のウサギで,外形は齧歯類のモルモットに似る。ピーピーとよく鳴くことからこの名がある。体長15~25cm,尾はなく,四肢は短い。耳は2cmと短いが,基部はウサギの特徴である円筒状をなす。1属17種がアジアと北アメリカの岩の多い山岳地帯にすむ。岩の間や地面に掘った巣穴に家族群で生活する。日本ではナキウサギの亜種のエゾナキウサギが北海道の山岳地帯に生息する。

 ムカシウサギ亜科はアマミノクロウサギ,アカウサギ,メキシコウサギの3属からなり,第三紀に栄えたものの生残りで,3属は地理的に大きく離れて分布している。

 ウサギ亜科はもっともふつうにウサギと呼ばれるもので,長く強力な後肢で跳びながら走るのが特徴である。他の多くの哺乳類と異なり,雌のほうが雄より体が大きい。耳は長く,尾は短い。ノウサギ類hareとアナウサギ類rabbitなど8属約37種からなり,家畜のカイウサギはアナウサギを飼い慣らしたものである。

 ノウサギ類はユーラシア,アフリカ,北アメリカに分布し,日本の本州以西の野生ウサギは,アマミノクロウサギを除きすべてノウサギ類である。耳の先端に黒斑をもつ。他のウサギ類と異なり,特定の巣をつくらず,木の根もとや茂みなどを休み場とし,単独性。夜活動して,草木の葉,芽,樹皮などを食べる。子は開眼,有毛の状態で生まれ,直ちに歩くことができる。

 アナウサギ類はヨーロッパの中部以南と北アフリカに分布するアナウサギと,カナダからアルゼンチンに分布するワタオウサギなどからなる。アナウサギは複雑な構造の巣穴を地下に掘って群れですみ,夜行性で,草,穀物などを食べる。アナウサギ類では生まれたての子は閉眼,無毛で,歩けない。アナウサギを飼い慣らしてつくられたカイウサギは世界中で飼育され,オーストラリア,アメリカなどでは,移入された飼育種が再び野生化して植生に大きな影響を及ぼしている。
執筆者:

ヨーロッパアナウサギをイベリア半島でローマ時代に家畜化したもので,15~16世紀ころからヨーロッパ各地へ広がり,その後全世界へ広がった。日本へ導入されたのは明治維新後である。飼育目的によって次のような品種が成立している。(1)毛皮用種 チンチラ種Chinchilaはフランス原産で,南アメリカ産の毛皮獣チンチラに似た黒白の霜降り状の毛皮をもつ。レッキス種Rexはフランス原産,毛は暗褐色の短毛でビロード状を呈し,高級毛皮の代用品として珍重される。ニュージーランド・ホワイト種New Zealand Whiteはアメリカ原産の白色種。日本白色種の改良にも用いられた。(2)毛用種 アンゴラ種Angoraが有名。(3)肉用種 ベルジアン・ヘアー種Belgian Hareはベルギー原産。毛色も腰高の体型もノウサギに似ている。フレミッシュ・ジャイアント種Flemish Giantはフランス原産の大型種で,体重が6kg以上にもなる。(4)兼用種 日本白色種は明治以降に日本で改良された毛肉兼用種で,体重約4.8kg。(5)愛玩用種 ヒマラヤン種Himalayan,ダッチ種Dutch,ポーリッシュ種Polishなど,体重1~2kgの小型の品種がある。

ウサギは野草,牧草,野菜,穀類などを体重の10~30%採食するから,これを1日,2~3回に分けて給与する。青草を主食とするときにはとくに水を与えなくてもよいが,分娩(ぶんべん)・哺乳時には給水の必要がある。飼育箱の床はすのこ張りにして足をぬらさぬように注意する。生後8ヵ月くらいから繁殖に供用できる。妊娠期間は30日で5~6匹の子が生まれる。分娩時にはウサギはとくに神経質になるので,暗い産箱を用意しその中で分娩させる。生まれたばかりの子は赤裸で目も開いていないが,発育は早く1ヵ月半で離乳する。ウサギを抱くときには肩の部分を大きくつかんで持ち上げ,耳でぶら下げるようなことをしてはならない。カイウサギにも他のウサギ目のウサギと同様食糞という習性があり,排泄した自分の糞のうち粘膜で覆われた被膜糞を肛門に口をつけて再食する。この糞にはビタミンB12が多量に含まれていてウサギの健康維持に不可欠のものである。ウサギは一般に病気に対する抵抗力が弱く,コクシジウム症,伝染性鼻炎,鼓脹症などにかかりやすい。

ウサギの肉はやわらかでくせがなく,タンパク質に富んでいて栄養価も高いが,脂肪が少なく淡白すぎるきらいがある。昔はソーセージなどの肉の結着力を増すために多用された。ウサギの毛皮は生産費の安い利点はあるが耐久力が劣るので,主として子ども服に用いられることが多い。アンゴラ種の毛は軽くて保温性に富み肌触りもよいので,フェルトや毛糸として利用される。最近ではこれら生産物の利用のほかに,医学,生物学の実験動物として使われることが多くなってきており,品種の中に遺伝的な均一性の高い近交系のものもつくられている。
執筆者:

ウサギを月と結びつける考え方は世界的な現象で,月に見える黒い影をウサギの姿と見てのことである。古代中国では《楚辞》天問篇その他に月中にウサギがいることが記されており,古代アメリカ,中央アフリカその他でも月とウサギを同一視する現象が見られた。ウサギは月を見てはらむという伝承が中国にあるが,月夜に活動することも,月と結びつけられた理由の一つであろう。ウサギは多産であることから,豊饒(ほうじよう)の象徴とされ,地母神と関係づけられることもあり,他方,淫奔(いんぽん)の象徴ともされる。キリスト教世界で聖母像の足下にウサギが表されるのは,聖母が肉欲を克服したことを示すものとされる。ウサギは弱い動物であるため,神の救いを求めるものとして墓石などに表現されることもある。中国では十二支の一つで卯の字に相当し,月では2月(卯月),方位は東で,中国,韓国の陵墓で東方の守護とされる。
執筆者:

日本では飼いウサギは近世末から起こったもので,古くはすべて野生のものであった。このうち西日本のものは年間を通じ黄褐色の毛であるが,東日本のエチゴウサギは冬季白化する。このため西南日本では白いウサギを珍しがり神秘なものとして山の神の仮の姿と考えた痕跡も認められる。両者ともに林木や農作物を食害するので農民に憎まれた。また狡猾(こうかつ)なものとして民話に登場するのも,聴覚が鋭く身軽ですばやく逃走し容易にとらえられないところからきたものであろう。

 捕獲法としてはわなや銃によるもののほかに,積雪地方に特有なものとして,わら製の輪,あるいは30~40cmの薪を空中に投げてワシや鷹の羽音をさせ,驚いたウサギが隠れようとして雪の中に首を差し入れ動かずにいるのを手づかみにするバイウチと呼ぶ方法がある。また,西日本では山下に細糸の網を張り,一方からおおぜいでいっせいにウサギを追って網場に追い込み,網にかかったウサギの首をひねる,鳥をとらえるのに類した方法が広く行われた。一般にウサギに限って,1羽,2羽と鳥を数えるような呼称をする習慣が知られ,肉の味が軽く鳥に似ているからと説明されているが,実はこの鳥をとらえるのと同じ方法,すなわち網でとらえるために,鳥と同じ単位で呼称されると解すべきであろう。近世,江戸幕府では正月元旦の食膳にウサギの肉の吸物を出すのを嘉例(かれい)とした。これは徳川氏の祖先が関東管領に追われ,法体で信州松本に流浪したおりに,土地の豪農林氏がウサギをとらえて正月の食膳に饗(きよう)したという伝承に基づいたもので,この事例や鳥類と同じであるという習慣を根拠に,近世の日本で獣肉食が一般に忌まれた中でウサギの肉のみは例外的に食用となっていた。明治以後は肉食が奨励されて飼いウサギが盛んとなり,一種のブームを呼んで高価に取引され弊害を生じ,また太平洋戦争前に毛の長いアンゴラウサギを飼って織物原料とすることが奨励された時期もあった。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「ウサギ」の意味・わかりやすい解説

ウサギ(兎)【ウサギ】

ウサギ目ウサギ科の総称。齧歯(げっし)類に似るが,上顎の門歯が2対あり,別系統とされる。尾が短く,後肢が長く跳躍に適し,耳が長いものが多い。オーストラリア,マダガスカルを除く全世界に分布。しかしオーストラリアでは,19世紀初めに移入したアナウサギが野生化している。砂漠,草原,森林,高山,ツンドラなど,ほとんどあらゆる環境にすむ。草食性で,二つのタイプの糞(ふん)を排出する。暗緑色のクリーム状の軟便は肛門から直接口に入れて食べる。これには,消化しやすい形の食物と,ビタミンBとタンパク質が豊富である。種類が多く,普通,ユキウサギ,ノウサギ,ジャックウサギなどのノウサギ類と,アマミノクロウサギ,アナウサギなどのアナウサギ類とに分ける。飼いウサギはアナウサギを家畜化したもので,多くの品種がある。肉用種としてベルジアン種,カリフォルニアン種,ニュージーランド・ホワイト種,毛用としてアンゴラ種,毛皮用としてチンチラ種,レックス種などがある。日本白色種は毛皮と肉との兼用種。また愛がん用としてイングリッシュ種,ダッチ種,ヒマラヤン種など。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウサギ」の意味・わかりやすい解説

ウサギ
Leporidae; rabbit; hare

ウサギ目ウサギ科の動物の総称。約 50種から成る。全長 25~76cm。上顎門歯は2対あるが,2本が前後方向に重なっているのが特徴。耳が長く,尾は短い。ノウサギ類 haresとアナウサギ類 rabbitsとに分けられ,ノウサギ類の子は生れたときすでに眼が開き毛も生えているが,アナウサギ類の子は閉眼で裸である。カイウサギはアナウサギを家畜化したものである。極地,海洋の島を除くほぼ全世界に分布する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「ウサギ」の解説

ウサギ

 [Oryctolagus cuniculus var. domesticus].哺乳綱正獣下綱ウサギ目アナウサギ属に属し肉が食用になる.肉の決着性が大きいことから,ソーセージの肉のつなぎとしても使われた.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

デジタル大辞泉プラス 「ウサギ」の解説

ウサギ〔台風〕

2000年に台風委員会により制定された台風の国際名のひとつ。台風番号、第33号。日本による命名。星座の「うさぎ座」から。

ウサギ〔キャラクター〕

A.A.ミルンによる児童文学作品「くまのプーさん」に登場するキャラクター。頭の回転が速いしっかり者のウサギ。

ウサギ〔ペットフード〕

株式会社スマックが販売するウサギ用フードの商品名。

うさぎ

日本の唱歌の題名。日本古謡に基づく。文部省唱歌。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のウサギの言及

【毛皮】より

…高級毛皮としては,ミンク,キツネ,テン,チンチラ,カラクールなどがある。ミンク,キツネなどが飼養され,またメンヨウ,ヤギ,ウサギなどの家畜が多く利用されている。野生動物の保護のためワシントン条約があり,学術研究以外に国内に持ち込むことが禁じられているものも多い。…

【実験動物】より

…これらの疾病の研究のためには相似の動物の疾患をモデルとして研究を行うことがきわめて有効であり,そのため疾患モデルとしての実験動物の系統もいろいろ作出され維持されている。例えば,糖尿病や筋萎縮症のマウス,本態性高血圧症のラット,高脂血症のウサギなどがある。検定用の実験動物とは,ホルモンや酵素など生物活性物質の力価を生物検定したり,疾病の診断をするために用いられる動物である。…

【月】より

…月全体として光の反射率は悪いのであるが,そのなかでも海の部分はとくに悪いといえる。月面には,このように暗い黒く見える部分とやや明るい部分があるために,月面でウサギが餅をついているとか,いろいろな話が生まれたのである。 月の表側には15ほどの海がある。…

※「ウサギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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