ソ連の映画監督、理論家。1月23日ラトビアのリガに生まれる。サンクト・ペテルブルグの土木専門学校に学び、赤軍入隊後は各地を移動しながら扇動演劇の活動を行う。1920年、復員してモスクワのプロレトクリト第一労働者劇場に参加し、翌年『メキシコ人』を共同演出。1923年、オストロフスキーの戯曲『どんな利口者にもぬかりはある』を演出、これに1巻の映画『グルーモフの日記』を挿入して上映、これが映画における初仕事となる。また、この芝居の上演意図を『レフ』誌に発表。「アトラクションのモンタージュ」と名づけられたこの論文は、のちにモンタージュ理論の土台となった。『ガスマスク』(1924)上演後、映画へ転じて最初の長編『ストライキ』(1924)を発表。革命前の労働者のストライキとその弾圧を描くこの映画には、演劇で試みた「アトラクションのモンタージュ」が応用されており、なかでも、労働者の虐殺と牛の、と畜を交互にみせたシーンは有名である。
第二作『戦艦ポチョムキン』(1925)は1905年の水兵の反乱に題材をとった映画。力強い構図、断片的モンタージュ、革命への視覚的メッセージ、ダイナミックな演出などを特徴とするこの作品は、国際的な関心をよび、サイレント映画史上の傑作と称せられるに至った。1927年、十月革命10周年記念映画『十月』を発表したが、知的モンタージュの実験である観念的比喩(ひゆ)が目だち、国内では不評を買った。続く『全線』(1929)では農村の社会主義化をテーマとし、やはり彼らしい数々のモンタージュ理論の実験がみられたが、批判を受けて撮り直し、『古きものと新しきもの』という題に変更された。ちなみに『全線』は第二次世界大戦前に日本で公開された唯一のエイゼンシュテイン作品である。1928年には有名な「トーキー宣言」を出して、近づくトーキー映画の普及に対し、画面と音の関係に一つの指針を打ち出した。同年、日本からの訪ソ歌舞伎(かぶき)公演に触発された観劇記『思いがけぬ接触』を書いている。このほか日本文化、芸術に関するユニークなエッセイがあり、日本への関心の強さを裏づけている。
1929年、僚友のアレクサンドロフ、ティッセらと海外映画事情視察の旅へ出発。ベルリンを振り出しにヨーロッパ各地で講演、1930年に渡米してハリウッドで『アメリカの悲劇』の映画化を計画したが実現せず、メキシコで撮影した『メキシコ万歳』は未完のまま、フィルムも出資者に差し押さえられて1932年に帰国した。なお、このフィルムは1979年アレクサンドロフの手によって編集され、一般公開された。1930年代はエイゼンシュテインら形式の実験を試みる芸術家にとって創造活動が困難な時期であった。そうしたなかで「視聴覚の対位法」理論を応用した初のトーキー映画『アレクサンドル・ネフスキー』(1938)を完成。1939年レーニン勲章および芸術学博士の学位を授与された。1948年2月11日モスクワに没す。遺作は『イワン雷帝』(第1部1944、第2部1946)。この作品は様式性を前面に押し出しており、第2部ではパート・カラーによる色彩の実験も試みられたが、その歴史解釈を批判され公開禁止となった。一般に陽(ひ)の目をみたのはスターリンの死後5年目の1958年であった。該博な知識とユニークな発想による数多くの論文を残したエイゼンシュテインヘは、1960年代以降、構造主義や記号学の観点から新しいアプローチが試みられた。
[岩本憲児]
ストライキ Stachka(1924)
戦艦ポチョムキン Bronenosets Potyomkin(1925)
十月 Oktyabr(1927)
古きものと新しきもの(全線) Staroye i novoye(1929)
センチメンタル・ロマンス Romance sentimentale(1930)
メキシコ万歳 ¡Que viva Mexico!(1932)
アレクサンドル・ネフスキー Aleksandr Nevskiy(1938)
イワン雷帝 Ivan Groznyy(1944、1946)
『山田和夫監修『エイゼンシュテイン全集』全9巻(1973~1993・キネマ旬報社)』▽『山田和夫著『エイゼンシュテイン――生涯とその思想』(1980・紀伊國屋書店)』▽『篠田正浩著『エイゼンシュテイン』(1983・岩波書店)』▽『岩本憲児編『エイゼンシュテイン解読』(1986・フィルムアート社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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