カイコノウジバエ(読み)かいこのうじばえ(英語表記)silkworm tachina fly

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カイコノウジバエ」の意味・わかりやすい解説

カイコノウジバエ
かいこのうじばえ / 蠁蛆
silkworm tachina fly
[学] Blepharipa zebina

昆虫双翅(そうし)目短角亜目ハエヤドリバエ科に属する昆虫。成虫は、体長13~16ミリメートル、翅長12~14ミリメートルの大形のハエ。頭部の中央額帯は黒褐色、側縁部は黄色、胸部は幅広く黒色で、黒色剛毛に覆われる。腹部はやや扁平(へんぺい)をなす。幼虫蠁蛆(きょうそ)とよばれ養蚕害虫として著名であるが、ほかの毛虫にも寄生する場合は、本種はむしろ益虫とみなされる。クワの葉にカイコノウジバエが卵を産み付けた後、養蚕家がそのクワの葉を摘む前に、クワの害虫となる毛虫がクワの葉とともにカイコノウジバエの卵を飲み込んだ場合、カイコノウジバエはその毛虫に寄生して殺すので、養蚕家にとっては益虫とみなされる。

 雌成虫はクワ、そのほか各種の樹木の葉裏に産卵する。養蚕の際、この卵のついたクワの葉をカイコが食べると、食葉とともに卵が消化管に入り、消化液の刺激で孵化(ふか)し、初齢幼虫は消化壁を貫通してカイコの体腔(たいこう)へ出て神経索に入り、ついで神経球に達するか、あるいは直接に神経球に潜入してここで寄生する。寄生したときのカイコの日齢が大きいほど、神経球に寄生する率が高い。宿主のカイコが老熟して繭づくりに入ると、寄生の幼虫は神経球から離れて宿主の気門叢(そう)に移り、自己の後部気門を宿主の気管に接着して呼吸できるようにし、頭部は宿主の内方に向けて寄生する。寄生された宿主は、気門の周囲が広く黒っぽいので、寄生していることが外見で容易にわかる。寄生幼虫は繭に小孔(しょうこう)をあけて脱出し、土中に入って蛹化(ようか)する。被害繭は、繭層量が激減するほか、孔(あな)あきのために製糸原料とはならない。

[伊藤修四郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「カイコノウジバエ」の意味・わかりやすい解説

カイコノウジバエ
Blepharipa sericariae

双翅目ヤドリバエ科の昆虫。寄生性のハエで,成虫は体長10~18mm。比較的扁平な体で,褐色,または黒褐色の地色に黄色~白色の粉をもつ。腹部の両側は赤色みを帯びることが多い。ヤドリバエ科のハエとしては剛毛の発達が弱い。カイコの害虫として著名で,キョウソ(蠁蛆)と呼ばれ,幼虫時代はカイコやヤママユ,シンジュサンなどの鱗翅目昆虫の幼虫に内部寄生して成長する。成熟した幼虫は寄主の体を食い破って脱出し,土中でさなぎとなる。成虫は花に集まり,みつをなめる。このハエは,佐々木忠次郎によって1887年に初めて明らかにされた微小卵生という特異な産卵習性をもつ。すなわち,ハエの雌は,5月下旬~9月に寄主となる鱗翅目昆虫の幼虫の食草に0.2mmほどの微小な卵を産みつけ,寄主幼虫によって食草とともに食べられた卵が寄主の消化管内で孵化(ふか)し,体内の組織を食い始めるという寄生方法である。日本全国にふつうに見られ,中国から東南アジア各地に広く分布するが,同地域に分布するB.zebinaと同種とされることもある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カイコノウジバエ」の意味・わかりやすい解説

カイコノウジバエ
Blepharipa sericariae

双翅目ヤドリバエ科。体長 13~16mmの大型のハエで,全体に黒色。胸部は黒色の短毛を密生し,また長い剛毛が多い。翅は透明で,基半部は褐色を帯びる。腹部は第2,3節の前縁と両側部が赤褐色で,灰色粉がある。後肢脛節には櫛状の剛毛が密生する。幼虫はきょう蛆 (きょうそ) といい,カイコに寄生する害虫として有名であるが,他の鱗翅類幼虫にも寄生する。日本,中国に分布する。 (→ヤドリバエ )

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百科事典マイペディア 「カイコノウジバエ」の意味・わかりやすい解説

カイコノウジバエ

一名カイコハリバエ。双翅(そうし)目ヤドリバエ科の昆虫の1種。体長13mm内外,灰黒色で剛毛がある。日本全土,中国,インドなどに分布。幼虫は【きょう】蛆(きょうそ)ともいい,カイコの寄生虫として有名だが,アメリカシロヒトリなど他のガやチョウの幼虫にも寄生。
→関連項目【きょう】蛆病ヤドリバエ

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