改訂新版 世界大百科事典 「カラマツ」の意味・わかりやすい解説
カラマツ (落葉松/唐松)
Japanese larch
Larix kaempferi(Lamb.)Sarg.
フジマツなどの地方名がある。日本の高地の日当りの良い土地に生えるマツ科の落葉大高木で,新緑,黄葉ともに美しい。新葉の形が唐絵のマツに似るので江戸末期に植木屋が唐松と呼び始めたという。高さ30mに達し,幹の樹皮は暗褐色のうろこ状にはげる。円錐形の樹形をなし,太枝は輪生状に数本ずつ出る。長枝と長さ3~4mmの短枝があり,長枝にはらせん状,短枝には束生状に長さ1~3cmの線形針葉をつける。早春新葉と同時に2~4年生の短枝頂に花を開く。雄花は下垂してその短枝には葉がない。雌球花は直立し,黄緑色で少し紅みを帯びる。球果は秋に熟し,長さ2~3cm,種鱗の上縁が外側に反る。各種鱗に2個の有翼種子がある。宮城県蔵王山東麓から石川県白山までの主として長野・山梨両県とこれを取り巻く山地および日光地方の温帯上部・亜高山帯の標高1000~2800mに分布し,森林限界以上ではハイマツ状にはう。陽樹で土質を選ばず,耐寒性があって生長も早いので,天然分布域から北の地方の山火事・伐採跡地などに広く植林されている。ヨーロッパでも早くから試験植林がなされている。ただし北海道ではノウサギ,ノネズミの食害が年々莫大な額になる。そこでこれに強いダフリアカラマツL.gmelinii Gord.の変種で南千島・サハリンに産するグイマツvar.japonica Pilgerとの雑種をつくり,抵抗性を高める研究がなされている。心材は赤褐色,辺材は帯白色で,針葉樹材中では重硬で加工性も良い方である。また水中での保存性が高いので,坑木,土木・建築材,まくら木,電柱などに多量に用いられた。しかし樹脂道からやにをしみ出させ,とくに若齢木の角材にねじれが出やすいという大きな欠点のため,上の用途の激減した昨今,間伐材の用途開発が急がれている。新緑,黄葉をめでて庭園木としても植えられる。
カラマツ属Larix(英名はlarch)は北半球の亜熱帯に10種余り分布し,ヨーロッパ中部~南部のヨーロッパカラマツL.decidua Mill.,シベリア西部のシベリアカラマツL.sibirica Ledeb.,シベリア東部のダフリアカラマツ,アラスカから北米東部に広く分布するアメリカカラマツL.laricina Kochなどはその中でも分布域の広いものである。近縁のイヌカラマツPseudolarix kaempferi Gord.はカラマツに似ているが黄葉がカラマツより美しく,球果は熟後くずれて鱗片がばらばらに散る。中国中南部に分布する。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報