カンゾウ(読み)かんぞう(その他表記)day lily

翻訳|day lily

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンゾウ」の意味・わかりやすい解説

カンゾウ(萱草)
かんぞう / 萱草
day lily
[学] Hemerocallis

ユリ科(APG分類:ススキノキ科)ワスレグサ属の総称。正しく萱草に相当する植物は中国産のホンカンゾウH. fulva L.で、日本には自生しない。葉は細長く、根出し、2列につく。葉間から花茎が高く伸び、ユリに似た6弁花を数個、総状または束状につける。花序は典型的な二叉(にさ)分枝状から数回枝分れする総状のものまでいろいろある。花は昼咲きまたは夜咲きで、1日でしぼみ、淡黄色、黄色から橙赤(とうせき)色系統まである。花被(かひ)の下部は癒合して短い筒状となるが、基部に蜜腺(みつせん)がある。花被は6枚あり、大きく反曲する。雄しべは6本、子房は細長く、3室、やや反曲した柱頭を伴い、成熟すると茶褐色で卵形または狭長卵形の蒴果(さくか)をつくる。種子は黒色で光沢がある。

 ワスレグサ属の植物はすべて多年草で、一般に日当りのよい陽地に多いが、まれに海岸近くのカシワ林や、コナラ、アベマキなどの明るい二次林の林床にも生える。しかし、代表的な生育地は海岸草原や高山・亜高山の草原である。ユーラシア大陸に約30種が分布するが、その多くは東アジアの温帯に分布する。欧米、とくにアメリカでは学名のヘメロカリスよりデイリリーの名で親しまれ、広く栽培され、交雑が容易で種間雑種も数多くつくられ、園芸品種としても重用されている。

 日本の野生種には、現在数種類知られており、開花時間の点から昼咲きのゼンテイカニッコウキスゲ)、ノカンゾウ、夜咲きのユウスゲ、夜昼咲きのエゾキスゲなどの種群が区別されるが、自然条件下でもまれに自然雑種が形成されることがある。

河野昭一 2019年1月21日]



カンゾウ(甘草)
かんぞう / 甘草

マメ科(APG分類:マメ科)の多年草。一般にはウラルカンゾウGlycyrrhiza uralensis Fisch.をさす。茎は直立し高さ30~80センチメートル、根茎は円柱状で地下に走出枝を多数伸ばし、主根は長く、表面は赤褐色ないし暗褐色、内部は淡黄色で甘い。葉は奇数羽状複葉で長さは8~24センチメートル、小葉は5~17枚で倒卵形ないし楕円(だえん)形、両面に腺毛(せんもう)と白毛がある。葉腋(ようえき)に葉より短い穂状花序をつけ、淡紫色の花を多数つける。雄しべは10本で二体雄蕊(ずい)をなし、雌しべは1本。果実は豆果(とうか)で裂開せず、鎌(かま)状に強く曲がり、黄褐色の刺状腺毛を密生する。中国の黄河以北および西部、モンゴルシベリアの日当りのよい乾燥した草原や河岸の砂質土壌に生える。ウラルカンゾウによく似たスペインカンゾウG. glabra L.は地中海地域から中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区まで分布し、花は淡紫色であるが、旗弁が白色ないし黄白色で、豆果(とうか)は長円形またはやや湾曲し、表面は褐色で光沢があり、小葉は楕円形ないし狭長卵形である。スペイン、フランス南部、イタリア北部、バルカンカフカスに野生するものは全株無毛であるが、ハンガリーウクライナ、中央アジア、シベリア南部、新疆に野生するものは全株に腺毛があるので、これをG. glabra L. var. glandulifera Regel et Herderとして区別する。これらの根と走出枝を乾燥したものを甘草と称し薬用にする。

[長沢元夫 2019年10月18日]

薬用

紀元前から中国、エジプトギリシアで呼吸器カタルや腹痛などに用いた。漢方ではもっとも多く使用される薬物で、疼痛(とうつう)、痙攣(けいれん)、潰瘍(かいよう)を治す作用があるので、腹痛、咽喉(いんこう)痛、咳(せき)、胃潰瘍などに用いるほか、サポニンのグリシリジンの構成部分であるグルクロン酸は、肝臓で有毒物質を抱合してそれを体外に排出させるので解毒剤としても用いる。ビール、たばこ、しょうゆの製造の際、甘味料として加える。日本には生育しないので、生薬(しょうやく)の形だけでなく、水で抽出して製した甘草エキスも多量に輸入している。

[長沢元夫 2019年10月18日]

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改訂新版 世界大百科事典 「カンゾウ」の意味・わかりやすい解説

カンゾウ (甘草)
Glycyrrhiza uralensis Fisch.

根や茎の基部が漢方薬で甘草と呼ばれ重用されるマメ科の多年草。カンゾウ属Glycyrrhizaの2,3種が同じ用途に利用される。これらを英名でlicoriceという。高さ数十cm,ときには1mになり,根茎は円柱状で,それにつづく主根は深く土中にのびる。直立する地上茎には白色の短毛や腺毛がある。葉は互生,奇数羽状複葉で4~8対の小葉がある。花は6~7月,腋生(えきせい)した花梗の先端に密集してつき淡紫色,1.5~2cmほど。豆果は長楕円形で鎌状に曲がり,長さ6~8cm,褐色のとげ状腺毛を密生する。種子は黒色で光沢がある。同属で,果実に腺毛のないG.glabra L.(中国名は洋甘草,欧甘草)や,G.kansuensis Chang et Peng(中国名は黄甘草)なども前種と同様に用いられる。カンゾウはシベリアから中国北部に,G.glabraはヨーロッパ南部からアフガニスタンに分布している。甘みはサポニン,グリチルリチンglycyrrhizin(ショ糖の150倍の甘みがある)やブドウ糖を含有していることによる。そのほかにフラボノイドflavonoidも含み,鎮咳(ちんがい),鎮痛や利尿作用がある。そのため風邪や咽喉の病気,さらに胃腸薬として用いられている。また漢方薬の甘味づけや錠剤の形成薬にも利用されている。日本ではしょうゆの甘味料として大量に消費され,また人工甘味料としての用途が広い。

 なおカヤツリグサ科のカンエンガヤツリやユリ科のキスゲ類もそれぞれカンゾウ(莞草,萱草)と呼ばれるが,これらについては〈カンエンガヤツリ〉や〈キスゲ〉の項目を参照されたい。
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百科事典マイペディア 「カンゾウ」の意味・わかりやすい解説

カンゾウ(萱草)【カンゾウ】

ホンカンゾウとも。南欧〜中国に分布するユリ科の多年草で,日本でもまれに栽培される。葉は根生し,線形で幅2〜3.5cm。夏,花茎の先に長さ10cm内外の黄赤色花を数個つける。花被片は6枚で基部は筒状。日本には変種のヤブカンゾウ,ノカンゾウ,ハマカンゾウが野生する。ヤブカンゾウはほぼ日本全土のやぶなどにはえ,ワスレグサ,オニカンゾウともいい,八重咲で,葉は幅4cmに達する。ノカンゾウは山野にはえ,葉は幅1cm内外で花は単弁。暖地の海岸にはえるハマカンゾウは葉が厚く,花茎にしばしば葉束がつく。いずれも一日花で,若葉や花を食用とする。なお同属のニッコウキスゲユウスゲなども日本の山野に自生し,庭に植えられるものにヒメカンゾウがある。また外国で種々の交雑によって作られた多数の園芸品種は花色も豊富で,黄・だいだい・赤等があり,属名のヘメロカリス,あるいはデイリリーと呼ばれる。

カンゾウ(甘草)【カンゾウ】

シベリア南部〜中国西部に自生するマメ科の多年草。高さ50〜100cm,奇数羽状複葉で小葉は4〜8対。花は淡紫色。本種およびスペインカンゾウ,ロシアカンゾウ,ペルシアカンゾウなどの根を乾燥したものを甘草といい,去痰(きょたん)剤,丸薬基剤などとするほか,胃・十二指腸潰瘍(かいよう)にも用いられる。漢方では,鎮痙(ちんけい)・解毒の目的で広く用いられ,甘草湯,葛根(かっこん)湯などに処方される。甘味料としても重要。
→関連項目五香粉

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カンゾウ」の意味・わかりやすい解説

カンゾウ(萱草)
カンゾウ
Hemerocallis; daylily

ワスレグサ科の多年草の総称で,ヤブカンゾウ(ワスレグサ),ノカンゾウなどを含む。ユリに似た一日花を咲かせるため,英語で daylilyと呼ばれる。日本に数種の自生種があるが,観賞用としても植える。日当たりのよい山野に多くみられる。春,淡緑色の線形の葉を束生する。夏には橙色の花をつける。若葉は山菜として食べる。

カンゾウ(甘草)
カンゾウ
Glycyrrhiza glabra; licorice root

マメ科の多年草。中国大陸原産で,まれに日本でも栽培される。高さ 1mほどになり羽状複葉を互生する。夏に,葉腋に花穂を出し,淡紫色の蝶形花を総状につける。根を干したものを「甘草」と呼び,咳止め,鎮痛剤などに使い,また甘味料にも用いた。

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栄養・生化学辞典 「カンゾウ」の解説

カンゾウ

 [Glycyrrhiza glabra].甘草と書く.バラ目マメ科カンゾウ属の多年草.根茎がグリチルリチンを含み甘いので甘味料として用いたり薬用にする.若芽も食用にする.

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普及版 字通 「カンゾウ」の読み・字形・画数・意味

【姦】かんぞう

姦臧。

字通「姦」の項目を見る

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デジタル大辞泉プラス 「カンゾウ」の解説

カンゾウ

マメ科ウラルカンゾウなどの根、根茎。鎮痛、鎮咳作用があり生薬として使用される。表記は「甘草」とも。

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世界大百科事典(旧版)内のカンゾウの言及

【カンエンガヤツリ】より

…朝鮮,中国,マレーシア,オーストラリアに分布するカヤツリグサ科の草本で,日本では第2次世界大戦後北海道,東北地方でむしろを編む作物材料として栽培された(イラスト)。カンゾウ(莞草)ともいう。朝鮮のワングルも本種のことである。…

【キスゲ】より

…葉は線形で2列に互生する。レモン色の花を夜間に開くキスゲの群と,橙黄色から赤色の昼咲きの花をつけるゼンテイカや,ノカンゾウ,ヤブカンゾウなどの群がある。東アジアの温帯域に10種あまりが分布している。…

【漢方薬】より

…この経験をもとに,胃潰瘍の治療薬も開発されている。カンゾウ
[附子]
 トリカブト属Aconitum植物の根で,猛毒のアコニットを含む生薬であるが,漢方では強心を目的に使用する。近年附子(ぶし)から強心成分としてヒゲナミンが単離された。…

※「カンゾウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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