カント哲学の基本概念(読み)かんとてつがくのきほんがいねん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

カント哲学の基本概念
かんとてつがくのきほんがいねん

ア・プリオリとア・ポステリオリ a priori, a posteriori
 先天的・後天的と訳されることもある。すべての経験から独立に、したがって権利上それに先だち、ときには経験を構成する認識あるいは判断をア・プリオリといい、反対に、経験からくみ取られる認識あるいは判断をア・ポステリオリという。
現象と物自体(げんしょうとものじたい)、フェノメノンとヌーメノン Erscheinung, Ding an sich ; Phnomenon, Noumenon
 感性を通して与えられる経験的世界は、実在のありのままの姿を示すものではなく、感覚に与えられた多様な素材が、人間の認識主観のア・プリオリな直観形式である空間、時間と、同じくア・プリオリな思考の形式である範疇(カテゴリー)によって整理構成されたところに生ずるものにほかならない。すなわち、それは、「物自体」ではなく「現象」である。現象は、感性的認識の対象として「フェノメノン」の世界であり、超感性的な純粋知性の対象としての「ヌーメノン」の世界のあり方については、人間の理性は、理論的にはなにもあずかり知らない。したがって、カントによれば、超感性的世界についての認識としての形而上(けいじじょう)学は理論的学としては成立しえない。
コペルニクス的転換 (コペルニクスてきてんかん) kopernikanische Wendung
 人間の理性による自然の認識は、客体として実在する自然を写し取るものではなく、反対に、認識主観のア・プリオリな諸形式に従って、現象世界を積極的に構成することにほかならない。この「超越論的観念論」の着想を、カントは、天動説を地動説に翻したコペルニクスの事業になぞらえ、認識論上のコペルニクス的転換とよんだ。
根本悪(こんぽんあく) das radikale Bse
 カントはもろもろの悪行の起源を、人間の超感性的無時間的行為としての「根本悪」に認める。これは、カント哲学の立場からする原罪の神話の解釈であり、単なる理性の限界内で聖書の伝承の内容を解釈する試みのなかで、とりわけよく知られているものである。
純粋実践理性の要請(じゅんすいじっせんりせいのようせい) Postulat der reinen praktischen Vernunft
 端的に義務の遂行を命ずる道徳法則が意味をもつためには、人間の行為の自然的因果系列からの「自由」、善の達成に至るまでの霊魂の「不死」、徳に見合う幸福の達成を保証するものとしての「神」の存在の三つが、理論的には証明不可能であるが、実践的には不可欠の「要請」としてたてられねばならない。理論的には成立不可能とされた物自体の世界のあり方についての形而上学が実践的には成立しうること、「純粋実践理性の優位」をカントが説くゆえんである。
純粋理性の二律背反(じゅんすいりせいのにりつはいはん) Antinomie der reinen Vernunft
 人間の理性が本来完結不可能な現象の世界を完結した物自体の世界と取り違え、世界のあり方について究極的な判断を下そうとするとき、それは不可避的に、互いに相いれぬ、しかも同等の権利をもつ幾組かの主張の対立に巻き込まれる。カントは、この二律背反(アンチノミー)をはじめとする人間理性の「超越論的仮象」の批判的解明を通じ、従来の形而上学の無益な争闘に終止符を打とうとした。
超越論的(ちょうえつろんてき) transzendental
 「わたしは、対象にかかわるというよりは、むしろ、ア・プリオリに可能であるべき限りでの対象の認識のあり方にかかわる認識を超越論的と名づける」とカントはいう。超越論的方法は、批判哲学の基本的いき方である。ときに「先験的」と訳されることもある。
定言命法(ていげんめいほう) kategorischer Imperativ
 定言命令と訳されることもある。真の道徳を基礎づけるべき道徳法則は、幸福などなんらかの目的を前提として、その達成のための方法を指示する「仮言命法」ではなく、端的に良心の声として義務の遂行を命ずる「定言命法」でなくてはならない。カントの実践哲学の根本概念の一つである。
分析的判断と総合的判断(ぶんせきてきはんだんとそうごうてきはんだん) analytisches Urteil, synthetisches Urteil
 判断の主語概念にすでに含まれる内容を述語として付け加えたもの(例、「三角形は三つの角をもつ」など)を分析的判断といい、主語概念に含まれていない内容を述語として付け加えるものを総合的判断という。分析的判断は、矛盾律を最高の規準として、すべてア・プリオリであるが、総合的判断はア・ポステリオリ、ア・プリオリ両様でありうる。カントは、数学、自然科学はア・プリオリな総合的判断を含むものと考え、これに照らして、形而上学の領域で同様の判断が成立しうるかという形で批判哲学の問いをたてた。『純粋理性批判』の根本問題は、こうして、「いかにしてア・プリオリな総合判断は可能であるか」という形でたてられる。
目的なき合目的性(もくてきなきごうもくてきせい) Zweckmigkeit ohne Zwecke
 『判断力批判』で、カントが、美的判断の特徴を解明するに際して用いる根本概念の一つ。カントは、美にみられる合目的性を対象の属性としてではなく、人間の諸認識能力の戯れによって生ずる快の感情に由来するものとして解明する。

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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