ア・ポステリオリa posterioriと対をなして,推論の二つのあり方を規定する中世スコラ哲学の用語。ア・プリオリとは〈より先なるものから〉の意味で,元来,原因から結果へ,原理から帰結へという方向をとる推論・認識を,ア・ポステリオリ(〈より後なるものから〉の意)は,その逆の方向をたどる推論・認識を意味した。神とその諸属性,理性,道徳的諸性質やそれらについての概念,判断,認識はア・プリオリと,一方,人間により近い感覚的経験的なものをもととする推論・認識はア・ポステリオリと考えられたのである。近世に入り近代科学の登場にともなって,人間の認識の基盤へのあらためての反省が盛んになるにつれて,この対概念は新たな認識論的規定をおびて登場する。ニュートン物理学の基本概念によりながら,空間・時間をア・プリオリな直観形式とし,純粋悟性概念としてのカテゴリーをア・プリオリな思考形式として,両者の協働のうちに数学と自然科学の学問性の根拠を求め,人間の知のあり方一般への反省の拠点たらしめたカントが,この転換にあたって決定的な役割をはたした。以来,ア・プリオリは,生得的,先天的,非経験的などの意味をおびて,論理実証主義からネオ・プラグマティズム,今日の生成文法などにまで至る議論の中で,くり返しそのあり方と有効性の範囲とを問われつづけることになるのである。
執筆者:坂部 恵
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