ドイツの哲学者カントの主著。後につづく《実践理性批判》(1788),《判断力批判》(1790)と並んで三批判書と総称され,批判哲学の体系を形づくる。1781年リガのハルトクノッホ書店から刊行された。カントは,存在一般,神,宇宙,霊魂などの認識にかかわる形而上学が,学的認識のあり方への十分な自己反省を欠くところから権威を失墜している時代の状況の中から,学としての確実な歩みに入っている数学,自然科学に範をとることによって,あらためて形而上学の存立の可能性を問おうとする。このために,理性の自己認識を目標として設けられた法廷こそ純粋理性の批判にほかならない。書物の全体は,超越論的原理論と超越論的方法論に大きく分かれ,前者は超越論的感性論と超越論的論理学を含み,超越論的論理学はさらに超越論的分析論と超越論的弁証論の2部門をもつ。ア・プリオリに可能なかぎりでのわれわれの認識様式にかかわる反省としての超越論的認識の方法が全体を貫いていることがあきらかであろう。超越論的分析論にいたるまでの書物の前半部分で,数学,自然科学等の認識が人間のア・プリオリな直観形式と思考形式による対象の構成によって可能になることを示したカントは,超越論的弁証論では,経験の限界を超えた形而上学的理念にかかわる認識が理論的には研究の向かうべき方向を指示する〈規制的原理〉を出ぬゆえんを説いて,実践の世界へと道を開く。
執筆者:坂部 恵
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ドイツの哲学者カントの主著で、批判哲学の1番目の著書。1781年刊行され、哲学の歴史に一大時期を画した。カントはこの書で、人間理性の権限と限界とについて端的に問いをたて、学としての形而上(けいじじょう)学の成立の可能性を問うている。すなわち、人間の理性は、感性――より厳密にいえば感性のア・プリオリ(先天的)な形式としての空間・時間――と結合することによって、数学や自然科学にみられるような確実な学的認識を生み出すことができるが、いったん、この感性と結び付いた「現象」の世界を離れて、「物自体」の世界に向かうと、解決不能な問題に巻き込まれて混乱せざるをえない。経験的認識に究極の統一を与えるべき理性の理念は、「統制的原理」として研究の向かう方向を指示する以上のものではありえない。霊魂の不死、自由、神の存在などの理念に積極的規定を与えることは、理論理性ではなく、実践理性の領域において初めて可能になるとされる。
[坂部 恵]
『篠田英雄訳『純粋理性批判』(岩波文庫)』
カントの主著(初版1781年)で,『実践理性批判』(1788年),『判断力批判』(1790年)と続く3批判書の第1。人間理性の権能と限界の画定を試みた近代哲学の古典。認識と認識対象の関係をコペルニクスの地動説における観測と天体の関係になぞらえて,認識論の「コペルニクス的転回」と呼んだ(第2版序文)。
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…70年ケーニヒスベルク大学教授となる。就職資格論文《可感界と可想界の形式と原理》には,空間,時間を感性の形式と見る《純粋理性批判》に通じる考えが見られる。81年,10年の沈黙ののちに主著《純粋理性批判》刊行。…
… カントも〈存在論〉を哲学体系に取り入れた。《純粋理性批判》では,広義の形而上学は〈予備学〉としての〈批判〉と体系としての形而上学を含み,後者は〈自然の形而上学〉と〈道徳の形而上学〉に分かれ,〈自然の形而上学〉ではその第1部門を〈先験哲学Transzendentalphilosophie〉すなわち〈存在論〉とし,〈合理的自然学〉〈合理的心理学〉〈合理的宇宙論〉〈合理的神学〉に先立てている。《形而上学講義》(K.H.L.ペーリッツ編,1821)では,〈形而上学〉とは〈ア・プリオリな諸原理〉に依存する〈純粋哲学の体系〉であり,〈ア・プリオリな認識がいかにして可能であるか〉に答えるのが〈純粋理性批判〉の任務とする。…
※「純粋理性批判」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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