改訂新版 世界大百科事典 「キヅタ」の意味・わかりやすい解説
キヅタ
ivy
Hedera
ウコギ科キヅタ属(ヘデラ属)Hederaのつる植物。北アフリカ,ヨーロッパ,アジアに広く分布し,ひっくるめて1種とされたり,10種ほどに分類されたりする。日本にもキヅタが自生する。常緑低木で多数の気根を出し,他の物体(樹木,岩石)などに吸着してよじのぼる。葉は互生し,全縁あるいはカエデの葉のように3~12浅裂する。花は両性で小さく帯緑色をしており,果実は液果状核果で,なかに3~5粒の種子がある。
カナリーキヅタH.canariensis Willd.(=H.helix L.var.canariensis(Willd.)DC.)はカナリア,マデイラ,アゾレスなどの諸島原産のつる植物で,茎は高く登攀(とうはん)もしくは付着物体より長く下垂する。葉は淡緑色,卵形で基が心臓形,長さ15~25cm,下葉は3~7裂する。花は総状あるいは円錐花序で,星状毛を有する。数種の変種と品種があり,フイリカナリーキヅタはよく知られる。
セイヨウキヅタH.helix L.は別名イングリッシュ・アイビーEnglish ivyの名でも知られ,ヨーロッパ,北アフリカに幅広く分布するつる植物で,高さは30mにのびる。葉は光沢ある濃緑色で長さ10cm,3~5裂し全縁であるが,花枝の葉は裂刻せず卵形。花梗と幼条に灰白色の星状毛を有する。本種にはきわめて多くの品種があり,現在,日本で栽培されるものは80品種以上に及び,へご付きのポール仕立てや,つり鉢につくられる。代表的なトリカラーcv.Tricolorは,葉は大型で3~5裂し,緑色地に淡緑,乳白の斑(ふ)が不規則にはいり,低温にあうとこの部分が淡紅色となる。グレーシャーcv.Glacierは,葉は小葉で3~5裂し,緑色地に黄白色の覆輪および斑が不規則に入る。ゴールドハートcv.Goldheartは,葉は中葉で3~5裂し,濃緑色地に黄白色の斑が葉の中心部に入る。
キヅタH.rhombea(Miq.)Bean(=H.helix L.var.rhombea Miq.)は日本,南朝鮮などに分布し,フユヅタ,オニヅタの名でも呼ばれる。深緑色で幼葉は3~5裂する。園芸品には斑入り品種も知られている。またキヅタとヤツデとの属間雑種で,新しい園芸品種のファッツヘデラFatshederaも作り出されている。
キヅタ類は性質の強いつる性の植物で,ほとんどの種類が関東以南では戸外で冬越しする。直射光でも半日陰でもよく育つため,鉢物として使われるほか,地被植物としてさかんに使われている。土質はほとんど選ばず,よく育つ。繁殖は挿木で春と秋がよく,葉を2~3枚つけて川砂か鹿沼土に挿す。
執筆者:坂梨 一郎
神話,シンボリズム
キヅタは古代ギリシアではキッソスkissosと呼ばれた。その名は,踊り狂って死んだ同名のニンフを酒神ディオニュソスがキヅタに変身させた神話に由来するという。酒神との結びつきからか,この植物は酔いを防ぐとされ,葉の絞り汁を酒に入れて飲む習慣があり,イギリスでは今でも居酒屋の正面にキヅタの輪(これをbushという)を飾る。一般の家の壁にこれをはわせるのは,雷や魔物をよける意味があるとされ,キヅタの茂る家は裕福さの象徴ともみなされる。これが急に枯れ落ちたりすれば,破産や災難の前兆として嫌われた。常緑であるため,永遠の友情や愛,または霊魂の不滅や永遠の生の象徴として,結婚式や葬儀に用いられた。花言葉は〈愛着と永遠の友情〉〈貞節と夫婦愛〉など。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報