キムラグモ(読み)きむらぐも

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キムラグモ」の意味・わかりやすい解説

キムラグモ
きむらぐも / 木村蜘蛛

節足動物門クモ形綱真正クモ目キムラグモ科の総称、およびそのなかの1種。和名キムラグモHeptathela kimuraiは、崖(がけ)地などの傾斜した所に地中に穴を掘ってすみ、穴の入口丁番(ちょうつがい)式の扉をつける。クモは中に潜んでいるが扉のすきまから外をうかがい、餌(えさ)となるものが近づくと飛び出してとらえる。糸の使用量は少なく、住居の入口付近、扉、卵嚢(らんのう)などに用いる程度である。体長10~15ミリメートル、黄褐色腹部に環節構造の名残(なごり)をとどめていること(化石グモには環節構造がある)。出糸突起が7個あること、出糸突起と肛門(こうもん)の間が離れているなどの点で原始的なクモとして注目され、「生きた化石」といわれている。環境の変化が著しくない地中生活のために、あまり変化せずに原始的な形態をとどめているものと思われる。1920年(大正9)にヤナギの研究家木村有香によって初めて発見されたのでこの名がある。近年、宅地造成などのために生息地がしだいに侵されつつあり、保護運動がおこっている。

 キムラグモの分布は、福岡大分熊本鹿児島沖縄の諸県が知られていたが、1980年(昭和55)に第二のキムラグモが沖縄本島から発見されオキナワキムラグモH. nishihiraiと名づけられた。沖縄以南のものはオキナワキムラグモであるか、両者が入り交じっているのか、という問題がおこっている。同属のものは中国に3種あり、またこの科に近似ハラフシグモ科(出糸突起8個)のもの数種が東南アジアに分布している。

[八木沼健夫]


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改訂新版 世界大百科事典 「キムラグモ」の意味・わかりやすい解説

キムラグモ
Heptathela kimurai

キムラグモ科のクモ。体長は雌13~18mm,雄10~13mm。1920年に木村有香が鹿児島で発見した〈生きている化石〉といわれる原始的なクモで,体節動物から進化した証拠を腹部に腹環節の形で残している。また糸疣(しゆう)が7本で,腹部下面の中央にある。紡績器官の未分化のためか,糸の出る量が少ない。触肢は歩脚とほぼ同大で,歩脚が10本あるように見える。九州と沖縄だけに分布する。崖地に15~20cmの深さの横穴を掘り,入口に片開きの戸ぶたをつくる。この戸ぶたを支えるために入口から2cmばかり糸で穴を裏打ちする。5~8月ごろその内部に糸と土でふたのついたつぼ状の卵囊をつくる。沖縄にはよく似たオキナワキムラグモH.nishihiraiも生息している。キムラグモの仲間は中国,ベトナム,ミャンマー,マレー半島,スマトラ島などに分布。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キムラグモ」の意味・わかりやすい解説

キムラグモ
Heptathela kimurai

クモ綱クモ目ハラフシグモ科。体長1~1.5cm。体は黄褐色。腹部背面にある 12枚のキチン質の甲皮が環節構造の名残りと考えられること,出糸突起と肛門とが離れていることなどから原始的な種と考えられる。崖地に 10cmほどの横穴を掘ってすみ,入口にちょうつがいのように開く扉をつける。入口付近を通りかかる獲物に飛びかかる行動は敏捷である。 1920年に鹿児島市の城山で発見された。九州,沖縄から同属の数種,および近縁のオキナワキムラグモ属 Ryuthelaの数種が報告されている。なおキムラグモ属 Heptathelaには数種の近縁種が中国とベトナムで知られているが,東南アジア産のハラフシグモ属 Liphistiusとともに「生きている化石」といわれている。生物学上貴重な動物で,保護の必要がある。 (→ハラフシグモ )

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百科事典マイペディア 「キムラグモ」の意味・わかりやすい解説

キムラグモ

蛛形(ちゅけい)綱キムラグモ科の1種。腹部に体節の痕跡(こんせき)があり,最も原始的なクモとして有名。体長10〜15mm,体色は淡褐色。崖地に10cmほどの横穴を作り,入口に土を糸でかがったとびらをつける。九州〜沖縄に分布。近縁種は世界に8種,いずれもアジアにすむ。

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