横穴(読み)ヨコアナ

デジタル大辞泉 「横穴」の意味・読み・例文・類語

よこ‐あな【横穴】

山腹や崖などに横に掘った穴。
古墳時代の墓の一種。墳丘を築く代わりに軟らかい土の丘陵の斜面や崖面に横に穴を掘って墓室としたもので、ふつう数多く群在する。5世紀に九州に出現し、6世紀には各地にみられる。埼玉県の吉見百穴はその一例。横穴墓。横穴古墳。
[類語]穴ぼこ窪みホール落とし穴縦穴抜け穴節穴気孔オゾンホール

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精選版 日本国語大辞典 「横穴」の意味・読み・例文・類語

よこ‐あな【横穴】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 横に掘った穴。横に通っている穴。
    1. [初出の実例]「猶横穴を掘り石槨をこしらへ置」(出典:随筆・耳嚢(1784‐1814)一)
  3. 古墳時代から平安時代にかけての墳墓の一つ。山腹・丘陵などを側面からうがって造った墳墓。凝灰岩・砂岩・ロームなどの地質に密集して造られている例が多い。代表的なものとして、埼玉県吉見百穴・横浜市市ケ尾横穴群など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「横穴」の意味・わかりやすい解説

横穴
よこあな

古墳時代後期から奈良時代の埋葬施設の一つで、丘陵や台地の斜面にうがたれた埋葬用の穴をいう。古墳の一種であり、「横穴古墳」「横穴墓」ともよばれるが、石室や盛り土をもつ高塚古墳とは異なる。斜面にうがたれる穴は、横穴式石室状の形状を呈するため、構造上掘りやすい凝灰岩質、ローム質、砂岩質など比較的軟質ではあるが、基盤の安定した地質の地方にみられる。分布は全国的な広がりをもち、とくに熊本、宮崎、島根、神奈川、千葉、東京、埼玉、茨城、福島、宮城などで濃密である。普通、群集して存在しており、その数は数基、数十基のものや、埼玉県の吉見(よしみ)百穴のように数百基を数えるものもある。

 横穴の形態には地域や時期差による多様性がみられるが、一般的には広くて高い玄室と、狭くて低い羨道(せんどう)からなる。その構造から横穴式石室との密接な関係をもって発展したものと考えられ、古墳の埋葬施設として早く横穴式石室を採用した北部九州の横穴は、東日本のものが7、8世紀に下るのに対して、6世紀に比定されるものが多いが、発生時期については5世紀にさかのぼる傾向にある。横穴の羨道部は、横穴式石室に比べて短く、時期の下るものには玄室と羨道の境の区別のできないものがある。ほかに羨道部の前方には祭祀(さいし)の場所と考えられる前庭部や墓道が付設される場合がある。玄室の床面には、遺骸(いがい)を安置する棺座・屍床(ししょう)や排水溝がつくられるが、追葬による合葬が一般的であり、複数の人骨が検出されることが多い。玄室の平面形には方形、三角形、隅丸(すみまる)方形、とっくり形などがあり、断面形では五角形、三角形、半円形に近い形状を示す。一般的に平面形が方形で断面形が五角形に近いものが古く、平面形がとっくり形で断面形が半円形のものが新しい。なかには天井部を家屋の屋根状に掘り込んだり、壁面に線刻画、彩色画や両方の技法を用いた刻彩色の壁画をもつものがある。羨門は木や石を扉状に立てたり、礫(れき)を積み上げて閉塞(へいそく)している。群集する初期の横穴は、同一斜面に一列に横にうがたれる傾向をもつが、時期が下るにつれ蜂(はち)の巣(す)状に密集する。

 副葬品は、併行して築造される横穴式石室から出土するものと共通するが、その量は全体的に貧弱である。しかし、群集する横穴のなかには一ないし二基だけに豊富な副葬品をもつものがあり、横穴式石室をもつ群集墳の被葬者層と単純には対比できない。また台地上には高塚の群集墳が、すぐ近くの斜面には同一時期の横穴群が築成されている例もあり、両者の違いが階層差を示すものか、部族の違いのようなものか明らかでない。

[後藤喜八郎]

『酒詰秀一他「横穴墓研究の現状」(『考古学ジャーナル110』所収・1975・ニューサイエンス社)』『池上悟著『考古学ライブラリー6 横穴墓』(1979・ニューサイエンス社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「横穴」の意味・わかりやすい解説

横穴 (よこあな)

古墳時代後期に顕著な埋葬施設の一つで,ほとんどは墳丘をもたないが,古墳の一種として理解されている。〈おうけつ〉とも読む。凝灰岩や砂岩などの軟らかい地質の丘陵斜面に営まれ,群在することが多い。大阪府柏原市の高井田横穴群,埼玉県比企郡の吉見百穴などがその典型である。横穴式石室と密接な関係をもって生成,発展し,玄室(主室),羨道(通路),前庭などを備える。形態には地域差が認められるが,玄室の平面形が方形,長方形,隅丸方形で,天井部が断面五角形,三角形,半円形のアーチ状をなすものが多い。天井が家屋のそれを表現した入念なつくりのものもあり,新しくは全体の平面形が徳利(とつくり)形をなすものもある。玄室の左右,あるいは奥壁に沿って遺体を安置する棺や屍床をつくり出す例も多く,その配置は九州の横穴式石室との関連性が強い。追葬による合葬が基本で,3~4体を納める例が多いが,なかには10体を超える例もある。壁面に彩色や線刻で絵を描くものや,入口の外側に図形を浮彫にするものもある。入口は木や石の扉を立てたり,塊石を積んで閉塞する。古墳時代中期後半には九州に出現し,北は宮城県に及ぶが,偏在性が強く,九州,山陰中部,北陸中部,静岡以東の太平洋岸などに濃密に分布する。副葬品は横穴式石室のそれと共通するものが多く,単純に石室を構築したものより低い階層の産物とはいえない場合も少なくない。

 なお,九州南部の日向・大隅地方には,地下式横穴と呼ばれる地方色豊かな古墳が分布する。地表面より深さ2m前後の竪穴を掘り,その底から横向きに羨道と玄室とを営んだもので,天井部を屋根形やドーム形に成形し,羨道や竪穴の入口部を石や粘土で閉塞する。群在するものが多く,それぞれには1体,ないしは数体の埋葬が認められる。古墳時代中期後半のものが多い。このほか,横穴や地下式横穴に類する施設は後の時代にもしばしばつくられたが,中世の鎌倉を中心に営まれた横穴式の納骨室は矢倉(やぐら)と呼ばれ,他と区別されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「横穴」の意味・わかりやすい解説

横穴
よこあな

自然の山や丘陵の崖面に穴をうがってつくった墓。形は横穴式石室と似ている。独立して存在することはなく,数個ないし十数個密集していることが多い。穴を掘りやすい土質のところに多く,分布にむらがある。古墳時代末期から奈良時代にかけてのものが多い。内部は玄室羨道に分れているものとそうでないものとがあり,棺床が数多くあるものや,一段高くなっているものがある。天井はかまぼこ形,アーチ形,家形などがある。柱,棟木を壁や天井に彫り刻んだり,線刻の壁画を施しているものもある。出土遺物は古墳時代後半期のものが多いが,仏具と思われるものがみられることもある。

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百科事典マイペディア 「横穴」の意味・わかりやすい解説

横穴【よこあな】

古墳時代の墓室の一種で,山や丘の斜面に横から穴を掘ったもの。6―7世紀にほぼ全国で作られ,形状には地方的特色が見られるが,一般的に横穴式石室と同様の構造をもち羨(せん)道は石室の場合に比して短い。これに類するものに地下式横穴がある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「横穴」の解説

横穴
よこあな

古墳時代の墓室の一種
山腹などに横穴を掘りくぼめて墓室を造ったもので,玄室と羨道 (せんどう) をもつことは横穴式石室と同じ。玄室には石棺や棺台を掘り残したり,家屋の内部に模したものがある。古墳時代後期に盛んで一般に群集することが多い。埼玉県東松山市の吉見百穴は有名。

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世界大百科事典(旧版)内の横穴の言及

【横穴】より

…凝灰岩や砂岩などの軟らかい地質の丘陵斜面に営まれ,群在することが多い。大阪府柏原市の高井田横穴群,埼玉県比企郡の吉見百穴などがその典型である。横穴式石室と密接な関係をもって生成,発展し,玄室(主室),羨道(通路),前庭などを備える。…

【装飾古墳】より

…壁画または浮彫,線刻などの装飾をもつ古墳の総称として用いる語。日本の古墳のうち,(1)浮彫または線刻で飾った石棺,(2)浮彫または線刻で飾った石障(せきしよう)をもつ横穴式石室,(3)壁面に彩色文様ないし壁画を描いた横穴式石室,(4)墓室の内壁または外壁に浮彫,線刻,彩色画などのある横穴,以上の4種をふくむ。しかし,日本以外の地域では,石棺に彫刻があっても装飾古墳ということはなく,墓室に壁画や浮彫があるものも,壁画墓,画像石墓などとはいうが,装飾古墳とはいわない。…

【墳墓】より

…遺体あるいはそれを納めた棺は,そのまま床下,屋外,野外,洞窟,岩陰などに土葬することもある。また,崖や斜面にうがった横穴(よこあな)やそれに続く墓室(中国後漢代の崖墓(がいぼ),日本古墳時代の横穴),垂直に掘り下げてから水平方向に掘った横穴(南ロシア青銅器時代の地下式横穴墓,宮崎・鹿児島県の地下式横穴),地下の坑道の壁面にうがった横穴(ローマの初期キリスト教徒の墓所であるカタコンベ)に納めることもある。石,塼(せん),木などで構築した墓室内に棺を納めることも多い(石室塼室墓)。…

※「横穴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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