キャビテーション(その他表記)cavitation

翻訳|cavitation

デジタル大辞泉 「キャビテーション」の意味・読み・例文・類語

キャビテーション(cavitation)

液体運動によって、液中が局部的に低圧となって、気泡を生じる現象。気泡内は蒸発した気体、分離した溶解ガスなどで満たされる。

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改訂新版 世界大百科事典 「キャビテーション」の意味・わかりやすい解説

キャビテーション
cavitation

ポンプや船のプロペラで翼面上を流れる水が加速され,水の静圧が局部的に蒸気圧以下になると,その部分の水が蒸発して水蒸気の気泡が生ずる。この現象をキャビテーション,あるいは空洞現象と呼ぶ。19世紀末イギリスで高速船のプロペラが予想された性能を発揮しなかったことから発見された。ポンプ,水車,舶用プロペラなどの液体を使用する流体機械はもとより,管路,バルブあるいはエンジンの冷却水ジャケット中にも発生する。また水以外に,油やアルコールなどの有機液体,低温の液体水素から高温の溶融金属まで,あらゆる液体に発生する可能性がある。一方,飛行機のプロペラでは作用する流体が気体なので,どんなに圧力が低下してもキャビテーションは発生しない。

 キャビテーションは翼面に付着したり水中に浮遊したりしている微細な空気泡を核として発生する。この微細空気泡の大きさや数,翼面の形状や表面の状態,流れの乱れや圧力の変化などによってキャビテーションのようすが異なり,翼面上で一つの大きな気膜になって面に付着しているように見えたり,多数の気泡になって液体といっしょに下流に流れたりする。渦中に発生するときには細長いひも状になる。キャビテーションの発生しやすさを示す指数として,σ=(p∞-pv)/(ρU2/2)で定義されるキャビテーション数σが用いられ,σの小さいほどキャビテーションは発生しやすい。ここでp∞は液体の一般流の静圧,pvは液体の蒸気圧,ρは液体の密度,Uは液体の一般流の流速である。キャビテーションが発生すると,翼の揚力が減少し抗力が増加するため機械の性能が劣化する,振動騒音が発生する,翼面が侵食され,はなはだしいときには穴があいてしまうなどの悪影響がある。騒音や侵食の原因は翼の後方で静圧が上昇すると気泡が急激につぶれ,その中心で数千から数万気圧という高い圧力が発生するためである。キャビテーションの発生を防ぐには機械を注意ぶかく設計し運転条件を適切にして,液体の静圧が蒸気圧以下に下がらないようにすればよいが,このとき翼面の小さな凹凸や隙間などにも注意を払う必要がある。実際の設計ではある程度キャビテーションの発生を許していることが多く,またキャビテーションが十分発生したとき性能がよいスーパーキャビテーションポンプやプロペラも考案されている。また騒音や侵食を防ぐため,わざわざ空気を吹き込んで気泡がつぶれるときのショックを和らげるくふうも行われている。侵食が問題となる場合にはステンレス鋼のような耐食性のよい金属が用いられる。キャビテーションに類似の現象としては加熱により気泡が発生する沸騰現象,ビールの泡のように水中に溶けた気体が気泡となって出てくる脱気現象などがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キャビテーション」の意味・わかりやすい解説

キャビテーション
きゃびてーしょん
cavitation

空洞現象ともいう。非圧縮性流体では、流線に沿って
  p+ρv2/2=一定 (ベルヌーイの定理)
が成り立つ。ここに、pは圧力、ρは流体の密度、vは流速である。断面積σが変化している管を考えると、
  σv=一定
であるから、管を絞る、つまりσを小さくすると流速は大きくなり、ベルヌーイの定理により圧力pは小さくなる。圧力が下がって流体の蒸気圧以下になると、流体は蒸発し気泡が発生する。このように流体の管中に気泡が発生する現象をキャビテーションとよぶ。気泡の発生する管の細い部分から下流側では、無数の気泡が発生し流されていく。管が太くなっていくにつれ、圧力は上昇して気泡がつぶれるが、そのとき爆発的な圧力が生じて、管を振動させ騒音がおこり、ときには管を損傷させる。ボイラーから高温の水を引き出す管の中にキャビテーションがおこって事故になることが多い。管の中の流れとは逆に、流体中を物体が動くときにもキャビテーションはおこる。ポンプやプロペラ、飛行機の翼などでは、物体に沿って流れる流体の流速が速くなる部分で圧力降下がおこり、気泡が発生する。水中翼船の翼におこるキャビテーションでは、翼を変形させたり折ったりするくらいの爆発的な力が発生する。これを避けるために、空洞の発生が翼の後端になるような設計がくふうされている。

[池内 了]

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百科事典マイペディア 「キャビテーション」の意味・わかりやすい解説

キャビテーション

空洞現象ともいう。ポンプ,水車,船などのプロペラで,翼面上を流れる水が加速されることによって水の静圧が局部的に飽和蒸気圧以下に低下し,その部分の水が小気泡(きほう)となって蒸発する現象。圧力が再び上昇して気泡が急激に凝縮・壊滅するとき,大きな衝撃的圧力が発生し,振動・騒音が生じるばかりでなく,翼面に穴があいてしまうこともある。
→関連項目水車

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キャビテーション」の意味・わかりやすい解説

キャビテーション

空洞現象」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のキャビテーションの言及

【水力発電】より

…水車の効率は定格出力付近で最高となり部分負荷で低下する。また過度の部分負荷ではランナー表面と水流の間が真空状態となり表面に潰食が進行する,いわゆるキャビテーションが発生するおそれがあるし,これがまた振動,騒音の原因となる。水車は小型の相似模型によって相似の水流中において試験を行い,効率,キャビテーションなどの特性のもっともよい水車形状を決めている。…

※「キャビテーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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