クモマツマキチョウ(読み)くもまつまきちょう(英語表記)orange tip

翻訳|orange tip

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クモマツマキチョウ」の意味・わかりやすい解説

クモマツマキチョウ
くもまつまきちょう / 雲間褄黄蝶
orange tip
[学] Anthocharis cardamines

昆虫綱鱗翅(りんし)目シロチョウ科に属するチョウ。ユーラシア北部に広く分布するチョウ。ヨーロッパでは普通種であるが、東アジアでは産地は限られる。日本では本州中部地方の特産種で、北・南アルプスのほか、戸隠山(とがくしやま)、八ヶ岳(やつがたけ)、新潟県より長野県にわたる姫川(ひめかわ)流域、静岡県下の大井川上流域、そのほか富山県下の黒部川(くろべがわ)上流域、新潟県下の妙高山(みょうこうさん)関(せき)温泉、燕(つばめ)温泉、岐阜県高山市などの山間渓谷に産することが知られている。

 古くから日本の高山チョウの一つとして著名であるが、姫川流域のような低標高地に産する場合もある。はね地色は白色、裏面には後ろばねと前ばねの先端部に草摺(くさず)り模様があり、雄の前ばねの表の先半は橙赤(とうせき)色で美しい。年1回の発生、低標高地に産する場合は4~5月、標高を増すにつれてしだいに発生期は遅れ、2000メートルを超す高山帯では7月(ときに8月まで)にその姿をみる。幼虫の食草はヤマハタザオイワハタザオミヤマハタザオなどのアブラナ科植物のつぼみや実。越冬態は蛹(さなぎ)である。長野県と富山県では県の天然記念物に指定され、採取は禁じられている。

白水 隆]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クモマツマキチョウ」の意味・わかりやすい解説

クモマツマキチョウ
Anthocaris cardamines

鱗翅目シロチョウ科。小型のシロチョウで,前翅の開張幅は雄 42mm内外,雌はやや大きい。雄と雌で色彩が異なり,黄白色の地に,雄では前翅の先半分が美しい橙赤色で,雌では先端外縁に沿って暗色模様をもつ。後翅裏面は雌雄ともに草色の雲形模様となる。輪郭は前・後翅とも丸みを帯び,全体にやさしい感じを与える。典型的な高山蝶といわれ,高山の標高 2000m付近のお花畑にみられ,日がかげると姿を隠す。幼虫の食草はヤマハタザオ。本州中部の山岳地域に産し,国外ではユーラシア大陸の高山地に広く分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のクモマツマキチョウの言及

【高山蝶】より

…英語でAlpineといえば,タカネヒカゲ類のことを指す。 本州の高山チョウは,クモマツマキチョウ(イラスト),ミヤマシロチョウ,ミヤマモンキチョウ,オオイチモンジ,コヒオドシ,タカネキマダラセセリ,ベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ,タカネヒカゲ(イラスト)の9種とされる。ミヤマシロチョウ,ベニヒカゲ,タカネヒカゲを除く残り6種はヨーロッパまで分布しているもので,日本では遺存種と見なしうるものである。…

【ツマキチョウ】より

…北アメリカにはよく似たA.mideaが分布する。 近似種のクモマツマキチョウA.cardamines(イラスト)は開張4~4.5cmであるが,前翅端が前種と異なってとがらぬため,翅の面積は大きく見える。イギリスからユーラシア大陸に広く分布し,日本のものは遺存種と見られる。…

※「クモマツマキチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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