シロチョウ(読み)しろちょう(その他表記)white and sulphur

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シロチョウ」の意味・わかりやすい解説

シロチョウ
しろちょう / 白蝶
white and sulphur

昆虫綱鱗翅(りんし)目シロチョウ科Pieridaeの総称。シロチョウという種は存在しない。中形のチョウ類で、日本に産するものに限ると、はねの地色は白色または黄色。「シロチョウ」「キチョウ」の語尾をもつ和名のチョウはすべてシロチョウ科に属するものである(アゲハチョウ科ウスバシロチョウウスバアゲハの別名〉、ウスバキチョウキイロウスバアゲハの別名〉は、その例外である)。

 アゲハチョウ科にもっとも近縁で、前脚は雌雄ともに正常で、蛹(さなぎ)は帯蛹(たいよう)になる点などは同様であるが、成虫の前脚脛節(けいせつ)の内側に棘(きょく)状突起がないこと、後ろばね内縁は特殊化がおこっていないこと、つねに尾状突起をもたないこと、幼虫は臭角をもたないこと、などの特徴によってアゲハチョウ科と相違する。

 全世界に産するシロチョウ科は四つの亜科に分けられるが、そのうちマルバネシロチョウ亜科Pseudopontiinae(アフリカ特産)を除く次の三つの亜科が日本に産する。

〔1〕シロチョウ亜科Pierinae この亜科はさらに二つの族に分けられる。

(1)シロチョウ族Pierini 日本土着のものはモンシロチョウPierisの4種、トガリシロチョウ属Appiasの2種、エゾシロチョウAporiaの2種の計3属8種。ほかに迷チョウとして日本に飛来するものに5種がある。蛹の形は「モンシロチョウ型」、幼虫の基本食草はアブラナ科フウチョウソウ科で、エゾシロチョウ属2種の食性(バラ科、メギ科)は例外である。

(2)ツマキチョウ族Euchloini この族の雄は前ばねの先端部に赤色ないし橙(だいだい)色の斑紋(はんもん)をもつものが多い。日本産はツマキチョウ属Anthocharis2種とツマベニチョウ1種。ツマベニチョウは日本産のシロチョウ科ではもちろん最大であるが、世界的にみても最大級のシロチョウである。ほかに迷チョウとして日本に飛来するメスジロキチョウ、クロテンシロチョウはこの族に含まれる。蛹の形は「鳩胸(はとむね)形」、幼虫の食草はアブラナ科、フウチョウソウ科などである。

〔2〕モンキチョウ亜科Coliadinae 日本土着のものはモンキチョウ属Coliasの2種、ヤマキチョウ属Gonepteryxの2種、キチョウ属Euremaの3種、ウスキシロチョウCatopsiliaの2種の計4属9種。ほかに迷チョウとして飛来したフィールドダイダイモンキチョウの記録がある。蛹の形は「鳩胸形」、幼虫の基本食草はマメ科である。クロウメモドキ科を食べるヤマキチョウ属2種の食性、クロマメノキ(ツツジ科)を食べるミヤマモンキチョウの食性はマメ科食からの二次的転換であると考えられる。

〔3〕ヒメシロチョウ亜科Dismorphiinae この亜科は前の2亜科とは類縁的に遠く離れたもので、その翅脈相などに著しい差異がある。この亜科の本拠は南アメリカで、南アメリカ以外では旧北区(ユーラシア大陸の中部から北部)にヒメシロチョウ属Leptideaの1属数種を産する。日本産はヒメシロチョウ、エゾヒメシロチョウの2種。蛹の形は「鳩胸形」、幼虫の食草はマメ科。草原性のチョウで、飛び方は弱々しい。

[白水 隆]


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改訂新版 世界大百科事典 「シロチョウ」の意味・わかりやすい解説

シロチョウ (白蝶)

鱗翅目シロチョウ科Pieridaeの昆虫の総称。世界に1000種あまりを産し,一般に小型から中型のチョウで,日本には迷チョウを含め約30種が知られている。白い翅をもつ種類が目だつのでシロチョウと呼ばれるが,黄色や橙色のものも数多く,亜熱帯や熱帯には黒ずんだものが少なくない。尾状突起をもつ種類はこの科には皆無である。ツマベニチョウは世界でもっとも大型のシロチョウである。

 日本産は3亜科に分けられる。モンシロチョウ亜科は白地の翅に黒色,黄色,橙色などの斑紋をもつものが多く,代表的なものにはモンシロチョウ類,ツマキチョウ類,エゾシロチョウ類とツマベニチョウがある。モンシロチョウ類には,白い地色が淡黄色に変わる遺伝型のあることが知られている。幼虫は緑色の,いわゆる青虫で,食草はアブラナ科植物を主とするが,ミヤマシロチョウとエゾシロチョウは体色,食草,幼虫の群生の3点で例外となっている。モンキチョウ亜科はその名のとおり翅の黄色いものが主であるが,雌の翅が白いものもある。モンキチョウ類,キチョウ類,ヤマキチョウ類,ウスキチョウ類などがあげられる。幼虫の食草はマメ科が多いが,ヤマキチョウ類だけはクロウメモドキ科を食樹とし,特定の葉に定住する傾向が強い。ヒメシロチョウ亜科は,南アメリカに種類が多い群で,日本にはヒメシロチョウとエゾヒメシロチョウの2種のみを産する。小型で,翅が横長で,胴が細長い。幼虫の食草はマメ科植物。

 シロチョウ科には草原性のものが多いが,森林周辺や森林にすむものもある。卵は縦長の砲弾型で,白色または黄色であるが,ほどなく橙色~紅色に変色するものがある。幼虫は円筒形,体表面に微毛を備えるが,集団生活をするものには柔らかい長毛が密生しており,触覚器官として作用している。さなぎは頭がとがり,帯蛹(たいよう)である。さなぎの形には二通りあり,腹面中心部が平らで背部の隆起する猫背型と,腹面が突出し背面がそってくぼむ鳩胸型がある。猫背型はモンシロチョウ類とエゾシロチョウ類のみ。成虫は花みつを求めるが,高温時には新鮮な雄のみ吸水活動をすることがある。ときに大発生したあと移動することがあり,モンシロチョウ,タイワンモンシロチョウ,ウスキシロチョウなどで観察例がある。ヨーロッパではオオモンシロチョウ,ダイダイモンキチョウの集団移動が有名である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シロチョウ」の意味・わかりやすい解説

シロチョウ
Pieridae

鱗翅目シロチョウ科に属する昆虫の総称。アゲハチョウ上科に属し,アゲハチョウ科とともに比較的原始的な形態を残している。前肢は退化せず完全で,静止するとき使用される。翅に金属光沢はない。幼虫は青虫型で微細な毛があるが,かなりの長毛をもつ種もある。蛹は木の枝などに尾端で付着し体を糸で帯状に支える帯蛹で,頭頂に1本の角状突起をもつ。モンシロチョウヒメシロチョウツマキチョウモンキチョウキチョウツマベニチョウなどを含み,世界に約 1000種を産する。

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百科事典マイペディア 「シロチョウ」の意味・わかりやすい解説

シロチョウ

鱗翅(りんし)目シロチョウ科の総称。身近なところではモンシロチョウに代表され,アゲハチョウ科に近いが前翅の脈が異なる。幼虫は青虫で,種々の双子葉植物を食べる。蛹(さなぎ)で越冬するものが多い。全世界に約1000種,日本には迷チョウらを含めて30種ほどを産する。

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世界大百科事典(旧版)内のシロチョウの言及

【チョウ(蝶)】より

…(1)アゲハチョウ科 大型種が多く熱帯アジアには美しいトリバネアゲハ属が分布している。一方,中央アジアや寒冷地にはウスバシロチョウ属が分布していて,幼虫は刺激をうけると頭と前胸部の間から臭角を出す。ミカン科,ウマノスズクサ科,ケシ科などをおもに食べ世界で約600種が知られている。…

※「シロチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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