改訂新版 世界大百科事典 「ケヤリ」の意味・わかりやすい解説
ケヤリ (毛槍)
fan-worm
Sabellastarte japonica
多毛綱ケヤリ科の環形動物。ケヤリムシともいう。陸中海岸以南からインド洋にかけて分布し,薄い膜の上に泥を固めてつくった太い管の中で生活する。管は干潮線付近の岩の割れ目などに付着し,管の先端から鰓冠(さいかん)をだして広げ,呼吸をしたり,餌のプランクトンをとったりする。このようすが昔,大名行列のときに使った毛槍に似ているところからこの名がある。大きな個体では体長25cm,環節数170にもなり,鰓冠部,胸部,腹部に分かれる。鰓冠は多くの鰓糸からなり,黄褐色に紫色の斑点をもつ。胸部は8剛毛節よりなる。水中で広げている鰓冠の上で光を遮ったり,水を振動したりするとすばやく管の中に引きこんでしまうが,これは一部の神経がとくに太いためにこのような機敏な動作ができるのである。
執筆者:今島 実
ケヤリ (毛槍)
Sporopchnus scoparius Harvey
漸深帯に生育し,昔大名行列のときに供の者がもった鳥の毛のついた槍に似た生殖器官をつける褐藻。日本の太平洋沿岸の関東以南,四国,九州,朝鮮に分布し,オーストラリアやインド洋にも生育が知られる。体は円柱状で,高さ30~60cmになり,各方面に枝を出す。生殖器官は先のふくらんだ棍棒状の小枝として枝の上に羽状に互生につく。小枝の先端には毛の束があり,そのようすが大名行列に使った毛槍に似る。和名はこのことに由来する。棍棒状の生殖器官の表面には胞子囊が密生し,中から泳ぎ出た遊走子は発芽して微細な糸状の配偶体となり,ここに卵と精子が形成される。受精した卵は分裂を繰り返してふつうに見るケヤリの体に発育する。その生活史の様式はコンブに似る。とくに利用されることはない。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報