ケントリッジ(読み)けんとりっじ(英語表記)William Kentridge

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケントリッジ」の意味・わかりやすい解説

ケントリッジ
けんとりっじ
William Kentridge
(1955― )

南アフリカ共和国アニメーション作家。ヨハネスバーグ生まれ。1990年代に現れた主要な美術家のなかでも、ポスト・コロニアル(植民地支配が終わった後に残る植民地主義的制度や文化)の状況で形成された複雑な政治意識と感性を体現する作家である。地元の大学で政治学とアフリカ研究の学位、ヨハネスバーグ芸術院で美術の学位を取得。

 70年代なかばから90年代はじめにかけて映画や演劇脚本、舞台デザインなどを手がけ、監督、俳優も行い、実験演劇劇団や自主映画制作集団の設立と運営にかかわる。

 ケントリッジを国際的に有名にしたのは、1989年から制作された、木炭ドローイングを使ったアニメーション映画である。アパルトヘイト時代に財をなしたソーホー・エクスタインSoho Ecksteinという名の白人のビジネスマンと、アパルトヘイト以降の白人亡命者の良心を表すようなフェリックス・タイテルバウム Felix Teitlebaumという人物を主人公にした、政治的内容の短い映画だった。ドローイングを撮影し、さらにドローイングを描き直したり、消したりした上からまた撮影するという原始的な方法で作られたアニメーションのゆるやかな動きが、さまざまな物や場所や瞬間を結びつける。92年からは人形劇団ハンドスプリング・パペット・カンパニーと共同で『ハイベルドのボイツェック』(1992)、『アフリカのファウスト』(1995)をはじめとする芝居、歌、影絵や人形劇を組み合わせた、ミクスト・メディア演劇の制作上演を続ける。

 ケントリッジの最初の短編映画集『ヨハネスバーグ、パリの次に偉大な都市』(1989)は、地元の映画祭で初上映されたのちロンドンのICA(インスティテューション・オブ・コンテンポラリー・アート)で上映された。そのほか『モニュメント』(1990)、『鉱山』『冷静、肥満、歳をとること』(ともに1991)、『亡命先のフェリックス』(1994)、『重要な不満の歴史』(1996)、『計測と願望』(1998)、『ステレオスコープ』(1999)などのアニメーションは、93年のエジンバラ国際映画祭、MoMA(ニューヨーク近代美術館)、ポンピドー・センターでの上映をはじめとして、多くの国際映画祭や美術館の個展で紹介された。93年と99年のベネチアビエンナーレ、97年のドクメンタ10(ドイツ、カッセル)など主要な国際展への参加も数多い。99年にカーネギー国際美術展(ピッツバーグ)でカーネギー賞受賞。2001~02年には、ワシントンDCのハーショーン美術館をはじめとする回顧展が全米5か所を巡回した。2002年のドクメンタ11では、映像インスタレーション『ゼノの告白』の展示とともに、ハンドスプリング・パペット・カンパニーの協力のもとに、影絵と演劇とオペラを合体させた『午前4時のゼノ』を上演した。

[松井みどり]

『Carolyn Christov-Bakargiev ed.William Kentridge (catalog, 1998, Société des Expositions du Palais des Beaux-Arts de Bruxelles, Bruxelles)』『Staci Boris, Dan Cameron, Niel Benezra, Lynne Cooke, Ari SitasWilliam Kentridge (catalog, 2001, Harry N. Abrams, New York)』

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