改訂新版 世界大百科事典 「ゲエズ語」の意味・わかりやすい解説
ゲエズ語 (ゲエズご)
Ge'ez
古典エチオピア語Classic Ethiopicともいわれる。また単にエチオピア語Ethiopicといってゲエズ語を指す場合もある。ゲエズ語は紀元前に南アラビアから紅海を渡って,エチオピアに移住したセム系の人々の言語(古代南アラビア語の方言)が,土着の言語(クシ諸語)との接触の過程を経て新たに成立した言語である。
北部エチオピアで栄えたアクスム王国の言語として,後3世紀からの碑文資料をもっているが,帝国の衰亡にともなって,10世紀ころには死語となった。しかしそれ以後も文章語としての独占的地位を保ち,19世紀末にアムハラ語に取って代わられるまで,翻訳を中心とする多くのキリスト教文献をはじめ,独自のゲエズ語作品を生み出して,伝統的なエチオピア文化の形成に重要な役割を果たした。現在ではエチオピア教会の典礼言語としてのみ伝えられている。構造的にはこの言語は,音韻,動詞組織等の面で,エチオピア・セム諸語中最もセム語的特徴をよく保っているが,語彙面を中心に非セム語的要素がみられる。語順は比較的自由である。文字は言語と同様に,南アラビア文字から独自の発展を遂げて4世紀に完成した音節文字で,左から右に横書きされる。数字はギリシア文字を若干変形したものが用いられている。
執筆者:柘植 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報