エジプトがキリスト教化された3世紀ごろからの、コプト文字で書かれるようになった古代エジプト語の最終段階をさす。コプトの名称はギリシア語aigyptiosからきたアラビア語qubî「エジプトの」に由来する。コプト文字はギリシア文字からの24文字と、エジプト民衆文字からの7文字の計31文字からなるアルファベットで、左横書きされる。母音も表記されるので、子音のみが書かれる古いエジプト語の母音体系を再建するうえでも重要である。六つの方言が知られているが、5~11世紀は上(かみ)エジプトのサイード方言が、それ以降は下(しも)エジプトのボハイラ方言が標準語であり、キリスト教関係をおもに、豊富な文献を残す。7世紀のエジプトのイスラム化以後はしだいにアラビア語に圧倒され、現在ではコプト教会の言語としてのみ存在する。しかし日常語として復活させようとの動きもある。
[柘植洋一]
コプト文字で書かれた文書によって知られる,2世紀以後のエジプト語。コプト文字は,ギリシア文字に数個のエジプト民衆文字を加えた単音文字体系で,それ以前のエジプト文字にはなかった母音文字を備えているため,これによって古代エジプト語の母音もある程度推定される。初期の非文学的資料は当時の口語を反映するものと考えられるが,資料の大半を占めるキリスト教文書は大部分ギリシア語からの翻訳であって,名詞・動詞はもちろん,前置詞や接続詞にまでギリシア語からの借用が及んでいる。少なくとも五つの方言が認められ,上部エジプトのサイード方言は全エジプトの文字共通語となったが,アレクサンドリアがキリスト教の中心となるにつれて下部エジプトのボハイラ方言が教会用語として勢力を得,14世紀以来現在までコプト教会の用語となっている。日常語としては7世紀以後イスラムの進出に伴い,アラビア語に滅ぼされた。
執筆者:松田 伊作
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…前7世紀ころからデモティック語がおこり,契約文書などに多く用いられた。3世紀ころ現れたコプト語にはギリシア語の影響が強く,この語による文献にはキリスト教関係のものが多い。時代的にはデモティック語→コプト語と続くが,言語の性質からすると,両言語ともに後期エジプト語から派生している。…
…行文の書き方には右進行縦書き,左進行縦書き,右→左横書き,左→右横書きの4種がある。ヒエログリフは子音のみを表すので,外国語に移された神名,王名,地名や,コプト語からの類推による母音付加vocalizationの研究が進んでいるものの,この文字で綴られた語の発音を完全に復元することは不可能である。それゆえ欧米の学者たちも,たとえば,テーベの市神の名をAmon,Amen,Amunなどと綴って,一致を見ない。…
※「コプト語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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