翻訳|Egyptian
古代エジプト語のこと。ハム・セム語族に属する。一般に古代エジプト人がハム人とよばれているように,エジプト語もハム語を母体としセム語の影響を受けたものと解されているが,西アジアのセム語との関係は究明されているものの,アフリカのハム語が古代文献を欠いているために,それとの関連は未詳である。前5千年紀初めころからナイル川下流地方に生成しつつあったものと考えられるが,文献資料の出現は前3200年ころである。古王国時代を中心として用いられた古期エジプト語の代表的文献としては〈ピラミッド・テキスト〉がある。この言語の発展したものが中期エジプト語で前23世紀ころから記録が残っている。これは正字法も整い,語彙も豊かで,格調高い《シヌヘの物語》などを生みだし,古典語とされた。この言語は時制が単純で,一定の語順が厳しく守られ,助動詞や接続詞を欠き,一般に叙述は静的であり,またおそらく絵画的な文字(ヒエログリフ)の性格とも相まって,哲学的・抽象的表現や情緒的なニュアンスの表現には不向きであった。しかし,明快な文体,激しいリアリズム,力強いパラレリズム(対句法)の多用などによって人心に強く訴えるものがある。宗教文書などにおいてはこの言語の伝統が後々まで続くが,前16世紀ころから新しく言文一致体(後期または新期エジプト語)がおこる。時制も複雑となり助動詞も多用され,大衆文学的なものを多く生んだ。中期エジプト語とこの言語との関係は,古典中国語と現代中国語との関係に似ている。前7世紀ころからデモティック語がおこり,契約文書などに多く用いられた。3世紀ころ現れたコプト語にはギリシア語の影響が強く,この語による文献にはキリスト教関係のものが多い。時代的にはデモティック語→コプト語と続くが,言語の性質からすると,両言語ともに後期エジプト語から派生している。
→エジプト文字
執筆者:加藤 一朗
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