イギリスの遺伝学者,統計学者,優生学者。バーミンガムの生れ。C.ダーウィンの従弟。ケンブリッジなどで学び,のちアフリカを旅行,調査結果を公にし,科学界に認められる。1865年以後人間の遺伝問題に関心を移し,統計的手法を用いて,人間の能力が遺伝的であることをつきとめる。69年の《遺伝的天才Hereditary genius》はそれをまとめたもの。彼は当時のイギリスの社会状況とのかかわりもあって人種改良の必要性を痛感,それを研究する学問として優生学なるものを提唱(1883),資金を投じ,ロンドン大学に優生学記録局を設ける。彼の提唱した優生学はその後,欧米,日本へも波及し,大きな影響を与えた。彼はまた人間の個性の研究など心理学分野でも活躍している。
執筆者:鈴木 善次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…そのような考え方は母集団の概念を導入するうえで役だったのである。続いて,優生学の研究の創始者として知られるイギリスの科学者F.ゴールトンが現れ,人体測定研究所で調査した多数のデータを解説するために相関係数の概念を導入して統計学の新しい手法を開発した。これは回帰分析の方法に対して,先駆的な役割を果たすものとなった。…
… しかし,天才をこのように平均人とは異質な存在として神格化したのは一般には19世紀前半までで,それ以後は生物学や医学の側から科学的な調査や分析が加えられるようになる。天才の遺伝も初期に興味を呼んだテーマの一つで,たとえばイギリスのゴールトンは高い天分をもつ学者や芸術家415人の家系をしらべ,31%にすぐれた父を,48%にすぐれた息子を,41%にすぐれた兄弟を,14%にすぐれた孫を見いだして,高度の天分が遺伝することを実証した(《天才と遺伝》1869)。こうした知見の延長上にあるのがクレッチマーの指摘で,それによると,近世ヨーロッパの天才たちは北方人種とアルプス人種との混交地帯に多く現れており,フランスの大部分,フランドル・オランダ,ドイツの大部分,上部および中部イタリアがこれに属するという(《天才人》1929)。…
…ケンブリッジ大学で数学を学び,ロンドン大学の教授となる。F.ゴールトンの影響により,生物学における統計的方法に興味をもつに至り,ゴールトンとともに雑誌《計量生物学Biometrika》を創刊し(1901),また近代的数理統計学の基礎を築いた。その主要な貢献としては,相関係数の定義,回帰分析の方法の確立,χ2適合度検定法の発明,〈ピアソン系分布〉の導入,統計量の大標本のもとでの〈蓋然(がいぜん)誤差〉の計算,母数推定の積率法の提案などがある。…
…優生学とは,C.ダーウィンの従弟であるF.ゴールトンが1883年につくり出した言葉で,ギリシア語の〈よい種(たね)〉に由来する。1904年の第1回イギリス社会学会で彼は《優生学――その定義,展望,目的》という有名な講演を行い,ここでその学問を,〈ある人種の生得的質の改善に影響を及ぼすすべての要因を扱う学問であり,またその生得的質を最善の状態に導こうとする学問〉と定義した。…
※「ゴールトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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