サイトカイン(読み)さいとかいん(その他表記)cytokine

翻訳|cytokine

デジタル大辞泉 「サイトカイン」の意味・読み・例文・類語

サイトカイン(cytokine)

細胞から放出され、特定の細胞に働きかけるたんぱく質総称免疫炎症反応などの生体防御機構に重要な役割を果たす。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サイトカイン」の意味・わかりやすい解説

サイトカイン
さいとかいん
cytokine

免疫に関与する低分子(小さい分子量)の特定のタンパク質の総称。感染などが引き金となって特定の細胞から分泌され、主として特定の細胞間の情報伝達を担っている。さらに、細胞どうしの相互作用や情報交換、細胞動態(細胞の形態や機能の変化)にも影響を与えており、細胞の生存や正常な維持に欠かせない物質である。

 具体的には、インターロイキン(IL)、インターフェロンIFN)、腫瘍壊死(しゅようえし)因子(TNF:tumor necrosis factor)、各種のコロニー刺激因子をはじめとした多様な種類が存在し、その種類は数百種といわれる。また、1種類のサイトカインが複数の働きをする場合も多い。それらの分類は、シグナルの伝達等の細胞レベルでの働きをはじめ、炎症や免疫、生体の防御への関与といった機能的側面や、構造的な特徴によって可能である。

 世界で初めてサイトカインであるインターフェロンを発見したのは、当時、種痘ワクチンの研究をしていた、日本のウイルス学者長野泰一(やすいち)(1906―1998)や小島保彦(やすひこ)(1928― )を中心としたグループである(1954)。しかし、その物質をインターフェロンと名づけたのは、イギリスのウイルス・免疫学者アリック・アイザックスAlick Isaacs(1921―1967)とリンデンマンJean Lindenmann(1924―2015)である(1957)。インターフェロンのようなウイルスに干渉する物質は、白血球のなかのリンパ球lymphocyteから分泌されることから、当初はリンフォカインと総称されていた。リンフォカインとは、リンパ球の接頭語であるlymphoとkine(ギリシア語の「動く」を意味するkineinに由来)からなる造語である。この分野の研究がとくに活発化したのは1980年代からである。そして、研究が進むにつれて、リンパ球以外の細胞からもこうした物質が分泌されることがわかり、これらをサイトカイン(「細胞」を意味するcytoとkineからなる造語)と総称するようになった。

 免疫系に関する研究は、日本を含めた世界各国で活発に進められており、研究成果は日進月歩である。現在もさらなるサイトカイン物質の発見や、新たな作用や機能等について多くの成果が、膨大な数の論文として発表されている。

 サイトカインの分類の一つとして、炎症性から評価する方法がある。すなわち、炎症反応を抑えるタイプと、炎症を促進するタイプのサイトカインに分けられる。炎症反応の抑制効果をもつサイトカイン(抗炎症性サイトカイン)の例として、IL-10、形質転換増殖因子TGF-β(ベータ))などがあげられる。一方、炎症反応を助長する性質をもつサイトカイン(炎症性サイトカイン)には、3種類のIFN(α(アルファ)、β、γ(ガンマ))、IL-1、IL-6、TNF-αなどがあげられる。なお、サイトカインを検出する際の試料(「検体」とも称する)には血液を用いることが多いが、唾液(だえき)や尿を試料とする研究も進められている。

[飯野和美 2023年7月19日]

サイトカインストーム

炎症性サイトカインが、なんらかの理由で過剰に反応し、ヒトの体内で炎症反応が非常に活発化して、いわば免疫暴走をおこすことをサイトカインストームcytokine stormという。サイトカインストームは、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)が重症化したケースで広く知られるようになったが、サイトカインストームの症状や障害を受ける臓器はさまざまである。たとえば、新型コロナウイルス感染症の重症患者の場合には、突然呼吸不全に陥る急性呼吸切迫症候群や、全身の血管内に血栓ができる播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全にまで進行することもある。そこで、一部の疾病で、IL-6をマーカーとしてサイトカインストームの有無を検査する手法が、2020年5月にFDA(アメリカ食品医薬品局)の緊急使用許可(EUA)を取得し、日本においては、2021年(令和3)1月よりその検査が保険適用となった。

[飯野和美 2023年7月19日]

『清水茜著『はたらく細胞 05』(2017・講談社)』『ダニエル・M・デイヴィス著、久保尚子訳『美しき免疫の力――人体の動的ネットワークを解き明かす』(2018・NHK出版)』『「免疫系の暴走 サイトカインストーム」(『実験医学』2021年3月号 Vol.39 No.4・羊土社)』『長野泰一著『インターフェロンとは何か――ガン制圧への期待』(講談社・ブルーバックス)』『マット・リヒテル著、河本宏監訳、権田敦司訳『エレガントな免疫 上』(ニュートンプレス・二ュートン新書)』『新妻耕太著『コロナ時代に知っておきたい免疫入門』(note株式会社・スマート新書)』

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百科事典マイペディア 「サイトカイン」の意味・わかりやすい解説

サイトカイン

免疫細胞のあいだで情報伝達を担うタンパク質の総称。インターフェロンや腫瘍壊死因子(TNF)などのほか,リンパ球が産生するものをリンホカイン,マクロファージが産生するものをモノカインと,まちまちに呼ばれてきた。1979年以降,物質的に同定されたものからインターロイキン(ILと略記)と呼び統一し,通し番号をつけることが国際的に提唱された。現在,IL1からIL18までが知られている。サイトカインには免疫細胞間の情報伝達のほか,免疫細胞の増殖,分化の誘導や,神経細胞や内分泌細胞,造血細胞などにも作用するなど広範な作用がある。
→関連項目免疫療法

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知恵蔵 「サイトカイン」の解説

サイトカイン

抗原が感作リンパ球に結合した時に、このリンパ球から分泌される特殊なたんぱく質の総称。これまでに、数十種類見つかっている。代表的なものにインターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子、ケモカイン、コロニー刺激因子、増殖因子などがある。いずれも、免疫系の調節、炎症反応の惹起、細胞の増殖や分化の調整、抗腫瘍作用に関係し、感染防御、生体機能の調節、様々な疾患の発症の抑制に重要な役割を果たしている。サイトカインやサイトカインの作用を阻害する物質(抗サイトカイン物質)を様々な病気の治療にも使っている(サイトカイン療法)。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

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化学辞典 第2版 「サイトカイン」の解説

サイトカイン
サイトカイン
cytokine

[別用語参照]インターロイキン

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「サイトカイン」の解説

サイトカイン

 リンパ球が生産する免疫系細胞の増殖,分化,運動などを調節するタンパク質の総称.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のサイトカインの言及

【リンホカイン】より

…おもなものにマクロファージ遊走阻止因子macrophage(migration)inhibitory factor(MIFと略記),白血球遊走阻止因子leucocyte inhibitory factor(LIFと略記),リンパ球の分裂を促進するマイトジェン因子mitogenic factor(MFと略記),リンホトキシンlymphotoxinなどがあり,インターフェロンをも含めることがある。なお,近年では広義にマクロファージが産生するモノカインmonokine(インターロイキンinterleukin‐1ともいう)や非リンパ球が産生するサイトカインcytokineなどをも含める場合が多い。免疫【松山 正】。…

※「サイトカイン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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