サフラン(読み)さふらん(その他表記)saffron

翻訳|saffron

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サフラン」の意味・わかりやすい解説

サフラン
さふらん
saffron
[学] Crocus sativus L.

アヤメ科(APG分類:アヤメ科)の多年草。地中海東部地域を原産とするが、ヨーロッパ中南部(とくにスペイン、フランス)、イラン、日本西部において栽培される。日本ではクロッカス属の秋咲き種をサフランといい、春咲き種をクロッカスとよんでいる。秋に地下の球茎(直径約3.5センチメートル)から1、2個の花をもつつぼみを出す。淡紫色の花は6個の花冠裂片をもち、3本の雄しべは花筒の上部につき、線形の外向葯(やく)をもつ。花冠の下部は15センチメートルの細長い花筒となり、中ほどまでは無色であるが、緑の部分は緑色の葉鞘(ようしょう)に包まれる。花柱は花筒よりも長い黄色の紐(ひも)状で、上部の3~3.5センチメートルは濃赤褐色で3裂し、先は漏斗(ろうと)状に広がって花外に垂れ下がる。先端の柱頭には鈍鋸歯(どんきょし)がありルーペで見ると乳頭状突起が認められる。暗緑色の葉は縁が巻いて細い線状となり、下面には白色葉脈がみえる。

[長沢元夫 2019年5月21日]

利用

花柱上部の濃赤褐色の部分だけを集めてサフラン(中国では番紅花(ばんこうか))と称し、薬、染料に用いる。薬用成分は子宮に選択的に作用するため、月経困難、更年期障害、流産癖、子宮出血などに効果がある。また、黄色のカロチノイド色素を含有するので、食品、化粧品、薬品の着色料にも利用される。サフランは高価なために、よく偽品が出回ることがある。なお、江戸時代にはオランダ語のsaffraanを音訳して雑腹蘭の字をあてていた。

 香辛料として使用されるのは赤色の雌しべで、手で摘み取り、低温で乾燥して密閉貯蔵する。およそ1万5000個の花から約100グラムしかとれないため、香辛料のなかではもっとも高価なものである。香味は独特な刺激のある香りと快いほろ苦味があり、水に溶けると非常に延びのよい黄金色となる。料理にはおもにこの着色性が用いられ、ブイヤベースやスペインのパエリャ(米飯料理)、魚、貝、エビなどに、またビスケットやケーキの香味、色付けにも使われる。茶の葉のかわりにサフランを使ったサフランティーは、鮮やかな色と香りで愛飲されている。

[齋藤 浩 2019年5月21日]

文化史

サフランの名はアラビア語で黄色い意味のsahafaranに由来する。古代には女性の眉(まゆ)染めやマニキュアに使われた。一方、古代ギリシアではクロコスkrokosとよび、内服液あるいは練り薬として、強精、利尿、子宮病などの薬に使用したことがディオスコリデスの『薬物誌』(1世紀)に出ている。クロコスは紐(ひも)の意味で、長い柱頭の形状に基づく。クロッカスはそれから派出したことばである。ギリシア時代には、薬効の弱いシチリア島やリビア産のものは、煮て野菜として食用にされた(『薬物誌』)。また、古代ギリシアやローマでは衣料を染めた。

 ギリシアの没落後は、アラビア人がヨーロッパで広く交易したため、サフランがクロッカスの名にとってかわった。日本に紹介した最初は平賀源内で、『物類品隲(ぶつるいひんしつ)』(1763刊)に洎夫藍(さふらん)と載せる。

[湯浅浩史 2019年5月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「サフラン」の意味・わかりやすい解説

サフラン
saffron(crocus)
Crocus sativus L.

観賞用に広く栽培されるアヤメ科の球根植物。もともとは薬用または染料用に利用するために栽培された。小アジアまたは南ヨーロッパの原産と考えられているが,確かなことはわからない。花茎は高さ10cm程度。茎頂に直径3cmほどの香りのよい淡紫色の花をつける。花期は10~11月。花被片は6枚。おしべは3本で,葯は大きく黄色でよく目だつ。花柱は3本に分かれ,鮮やかな橙赤色。赤い花柱,黄色の葯と淡紫色の花被のコントラストが美しい。花茎の基部には鞘(さや)状の鱗片葉がある。葉は花期には短いが,花後伸長して20~30cmに及ぶ。球茎は径約3cmで,外皮は網目状の繊維にほぐれる。花柱を集めて乾かしたものはサフロンsaffronと呼ばれ,鎮静・鎮痛・通経薬として用いられる。日本では,この薬名を音訳したものがそのまま植物名となった。乾燥した花柱は色素や芳香成分を含み,菓子や料理の香料および染料としても用いられる。花柱の色素の主成分はカロチノイド系の色素で,属名にちなんでクロチンcrocinと呼ばれている。

 サフラン属Crocusは約75種を含み,花が美しいものが多く,大部分の種が観賞用に栽培される。園芸的には春咲きの種と秋咲きの種が区別されている。分類学的には花茎基部に鞘状の鱗片葉をもつ有鞘(ゆうしよう)群と,それを欠く無鞘群とに大別される。球茎の外皮の表面模様や繊維のほぐれ方にはさまざまな変化があり,種や種群の分類を行う場合の重要な手がかりとなっている。大部分の種はヨーロッパの地中海沿岸域と小アジアに分布する。
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食の医学館 「サフラン」の解説

サフラン

サフランはクロッカスの仲間で、スパイスとなるのは、その花1輪に1本しかない、雌しべの頭の部分。これを乾燥して用いるため、1kgのサフランを得るには、およそ17万本もの花が必要です。しかも、採集は開花時期の約2週間のあいだに、すべて手作業で行われることから、もっとも高価なスパイスとなっています。
 歴史的にみても、古くから香料や染色剤として珍重されており、地中海周辺の古代文明の記録にも、その名前がしばしば登場するほど。また、医療の分野においても、通経剤、鎮痛剤など、おもに婦人病の薬として用いられてきました。
 サフランには、鎮痛、鎮静、月経の誘発、消化促進、健胃といった作用があります。具体的症状としては、生理不順、生理痛、腹痛などに有効。また、10本程度をコーヒーカップに入れ、熱湯を注いで煎(せん)じだしたものを空腹時に飲むと、気持ちの高ぶりを鎮め、イライラ、ストレス、不眠症の解消に効果があります。
 ただし、子宮の動きを活発化する働きがあるので、妊娠中の女性は摂取量に注意。ふつうに料理へ用いる以上に、大量の摂取は避けたほうがいいでしょう。
〈南仏料理やスペイン料理には欠かせないスパイス〉
○食品としての使い方
 サフランには、鮮やかな黄色の発色性があります。また、その香りは独特で組み合わせる素材を選びますが、米や魚介類と好相性。とくに南仏料理やスペイン料理に好んで用いられ、パエリア、ブイヤベース、リゾットには欠かせません。
 料理に使う場合、水か湯にひたし、色を浸出させてから料理に加えるのがポイント。こうするとムラなく色付けすることができます。なお、大量に使ったからといって、発色がよくなるわけではありません。
 サフランは高価なだけに、レシピの量をまもるのが賢明です。

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百科事典マイペディア 「サフラン」の意味・わかりやすい解説

サフラン

小アジア,ヨーロッパ原産のアヤメ科の球根植物で,クロッカスの一種。花茎は高さ10cm内外。11月ころ茎頂に香りのよい径約3cmの淡紫色の美しい花をつける。葉は線形,花後伸びて長さ20cm〜30cmになる。花柱の上半部を採集し乾燥したものもサフランといい,鎮静剤,芳香剤などとし,食品,化粧品の着色料(黄)とする。栽培は9月に球根を植え付け,11月に花柱を収穫。観賞用にもされる。
→関連項目サフランボル生薬染料作物パエーリャ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サフラン」の意味・わかりやすい解説

サフラン
Crocus sativus; saffron

アヤメ科の多年草。南ヨーロッパ原産で,薬用または観賞用に広く栽培されている。地下に球茎があり,葉は細長い線形で松葉状,花後に著しく生長する。 10~11月に,短い葉の間に淡紫色の優雅な花を開く。花は漏斗状で花筒は細長く,花被片は6枚,おしべ3本,めしべ1本であるが,めしべの花柱は深く3つに分れ,鮮かな赤色をしている。この花柱を乾燥したものをサフランといい鎮静剤などの薬用とし,また水に浸して得る黄色の液 (カロテン) で食品に色や芳香をつける。同属の別種で単にクロッカスと呼ばれ,早春開花し,観賞用に広く栽培されるものにハナサフラン,キバナサフランなどがある。

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栄養・生化学辞典 「サフラン」の解説

サフラン

 [Crocus sativus].ユリ目アヤメ科サフラン属の植物で,花の柱頭を乾燥して食品や料理の際,色素として用いる.色素はクロシンとよばれるカロテノイド.

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デジタル大辞泉プラス 「サフラン」の解説

サフラン〔自動車〕

フランスのルノーが1992年から1998年まで製造、販売していた乗用車。5ドアの大型ハッチバック。

サフラン〔植物〕

アヤメ科の多年草。めしべは乾燥させ香辛料や生薬として使用される。鎮静鎮痛、強心作用がある。

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世界大百科事典(旧版)内のサフランの言及

【通経薬】より

…古くは多くの民間薬がこの目的に用いられた。腹部に充血を起こすような下剤や,刺激性の植物精油剤で,たとえばロカイ(ユリ科植物アロエの葉のエキス)やサフラン(アヤメ科植物)などがあったが,これらはしばしば人工流産を起こす目的でも用いられた。現在では,月経困難症について,その原因がいくつか明らかにされており,その原因を取り除くような治療が施される。…

※「サフラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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