サモエード諸族(読み)サモエードしょぞく(英語表記)Samodiiskie narody

改訂新版 世界大百科事典 「サモエード諸族」の意味・わかりやすい解説

サモエード諸族 (サモエードしょぞく)
Samodiiskie narody

ロシア連邦,西シベリアから旧ロシア共和国北部にかけて広く分布し,ウラル語族サモエード語派の諸言語を使用する民族の総称。人口3万4000(1979)。言語・文化的に北方群(ネネツ族,エネツ族Enets,ガナサン族)と南方群(セリクープ族)に分かれる。南方群には,話者を失って消滅したカマス,カラガス,コイバル,モトル,ソヨート,タイギ(これらすべてを総称してサヤン・サモエードという)も加えることができる。古文献では〈サモヤディ〉〈サモゲディ〉〈サモゲティ〉と記載されており,サモエードという呼称は,彼らが食人種であるとの風説と結びついて成立した現代ロシア語のsamoedy(〈自らを食べる者〉の意とも解される)に由来するが,その原義は不詳である。一説にはこれがスカンジナビアのラップ人の自称サーミSámi(サーメSaame)と関連するともいわれる。1917年の革命後のソ連ではサモエードという呼称に代わって,サモディSamodiという名称が通用している。これに伴ってサモエード諸族の旧称ユラク・サモエードSamoed-yurak,エニセイ・サモエードEniseiskii-Samoed,タウギ・サモエードSamoed-tavgiits,オスチャーク・サモエードOstyako-Samoedもそれぞれネネツ,エネツ,ガナサン(いずれも〈人間〉の意),セリクープ(〈土地の人間〉の意)に改められた。

 サモエード諸族の形質的特徴はモンゴロイドコーカソイド(エウロポイド)の双方の要素が混在するところにあり,いわゆるウラル型である。両者からの距離ではモンゴロイドにより近いが,民族によって偏りが認められ,ネネツが最もモンゴロイド的で(しかしツングースほどではない),セリクープは最もコーカソイドに近い。彼らはすべて短頭,低身長(157~160cm)であるが,蒙古ヒダの存在はネネツ,エネツ,ガナサンで顕著であるのに,セリクープでは25%しか認められず,しかも毛髪,虹彩,皮膚の色調もより明色である。生業の面からみると,サモエード諸族は,(1)遊牧型トナカイ飼育民(ツンドラ・ネネツ),(2)狩猟民(森林ネネツ,エネツ,特にガナサンはトナカイ狩猟),(3)狩猟・漁労民(セリクープ)に分類できる。(1)はツンドラ,(2)は森林(タイガ),(3)は内陸河川流域への生態的適応の所産であるが,言語学者の研究によると原サモエード文化は前4000年ころに成立したとされており,当時の生業形態は(2)に近いものであった。その後,トナカイ飼育の展開に伴って西シベリア一帯にサモエード諸族が広まった((2),(3)でも小規模のトナカイ飼育は行われる)もので,トナカイ飼育はネネツのもとで最高度の発展をみた。

 十月革命後はサモエード諸族のもとでも経済の集団化が実施され(1929-50),特に遊牧生活者であるツンドラ・ネネツの定住化が進められた。民族語による最初の公教育はセリクープのもとで1925年に開始され,セリクープ語とネネツ語はキリル文字に基づく正書法が与えられた。
サモエード諸語
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百科事典マイペディア 「サモエード諸族」の意味・わかりやすい解説

サモエード諸族【サモエードしょぞく】

中央シベリアのハタンガ川からヨーロッパ極北のカラ海に臨む地方にかけてのツンドラ地帯に住むトナカイ遊牧民。ネネツ,ガナサン,エネツ,セリクープのサモエード諸語を使用する4族をいう。従来,衣食住の多くの面でトナカイに依存。近年では小規模農業,家畜飼養も行う。
→関連項目マンシ

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