キリル文字(読み)キリルモジ

デジタル大辞泉 「キリル文字」の意味・読み・例文・類語

キリル‐もじ【キリル文字】

9世紀、ギリシャ人宣教師キュリロス(Kyrillos。ロシア名キリル)が、ギリシャ文字もとに作成した文字。現在のロシア文字はこれを多少改修したもの。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「キリル文字」の意味・読み・例文・類語

キリル‐もじ【キリル文字】

  1. 〘 名詞 〙 ギリシア文字に基づいてギリシア人キュリロス(Kyrillos ロシア名キリル)が作ったグラゴール文字をもとに、一〇世紀にブルガリアで作られた文字。これが多少改修されたものが現在のロシア文字。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「キリル文字」の意味・わかりやすい解説

キリル文字 (キリルもじ)

スラブ語最古の文献の言語である古代教会スラブ語の文字として,グラゴール文字と共に使われた二つの文字の一つで,9世紀末には既に使用されていたと考えられている。ブルガリアではこの文字で書かれた9世紀末の碑文断片が発見されているし,10世紀前半にはロシアでも使用されており,さらにこの文字で書かれたブルガリアのサムイル公の墓石(10世紀末)も見つかっている。しかし,これらの事実はスラブ語の文字を作ったといわれるキュリロスメトディオス以前にキリル文字が文字の体系として存在していたことを示すものではない。この文字はギリシア語大文字を主体に,さらにグラゴール文字その他の文字によりギリシア語にない音の表記のための文字が補われて成立したものと考えられている。文字の性質は原則的には1音1文字のアルファベットであるが,いくつかの文字は二つの音を一つの文字で表している。

 10~11世紀を通じてこの文字はスラブ圏の東部にひろまり,18世紀にいたるまでにいくつかの字体の変化を経たほか,それぞれの事情により一定の改訂がなされて,今日のロシア語ブルガリア語マケドニア語セルビア語などのスラブ語(スラブ語派)の文字となっている。この文字はさらに18世紀にはルーマニアでも使われたほか,今日ではモンゴル語や,旧ソ連邦内の多くの民族の文字の母体としてスラブ語以外でも使われている。キリル文字の名のキリルはスラブの使徒キュリロス(スラブ名キリル)にちなんでつけられたものと考えられているが,キュリロスが作った文字はキリル文字ではなくグラゴール文字であることは,今日学界定説となっている。
グラゴール文字 →ロシア文字
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キリル文字」の意味・わかりやすい解説

キリル文字
きりるもじ
Кириллица/Kirillitsa

古代ブルガリア語(古代教会スラブ語)の表記に用いられた文字。紀元後9世紀、サロニカ(ギリシア)の伝道僧キリロス(別名コンスタンティノス)とメトディオスの兄弟が、ギリシア正教の布教のためにギリシア語の福音(ふくいん)書をこの言語に翻訳したが、その際キリロスがギリシア字母の大文字の形に基づいてつくったといわれる。すこし古い形としてギリシア字母の小文字に基づくグラゴル文字がある。キリル文字では、当時のギリシア字母の音価を反映して、たとえばBは[v]、И(ギリシア字母のHから)は[i]を表す。現在、ロシア語、ブルガリア語、セルビア語、マケドニア語などのスラブ諸語で用いられている。

[長嶋善郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キリル文字」の意味・わかりやすい解説

キリル文字
キリルもじ
Cyrillic alphabet

9世紀後半につくられ,グラゴル文字と並んで古期教会スラブ語の表記に用いられたアルファベット。広義には,ロシア文字などキリル文字を母体とするすべての文字をさす。ギリシアのキリスト教伝道者キュリロスとメトディオスの名にちなむが,彼らが考案したのはグラゴル文字のほうであったという説が有力である。ギリシア文字のアンシャル字体に基づき,スラブ語に多い歯擦音や破擦音を表すための文字を新たに加えてある。古期教会スラブ語の時代以来,スラブ圏東部のギリシア正教圏で用いられてきた。(→スラブ人

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「キリル文字」の解説

キリル文字
キリルもじ
cyrillic

キュリロス(スラヴ名キリル)によって創始されたグラゴール文字が改良され,ロシア文字の母体となった,スラヴ−アルファベット
南スラヴ教化のために,ギリシア語の大文字を主体として作成された文字で,9〜10世紀ごろよりスラヴ圏に普及していった。現在ではロシア語だけでなく,ブルガリア語,セルビア語などの表記にも用いられている。キュリロスは兄メトディオスとともに,モラヴィア王の要請で派遣されたギリシア人宣教師で,スラヴ人の使徒と呼ばれる。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

百科事典マイペディア 「キリル文字」の意味・わかりやすい解説

キリル文字【キリルもじ】

ロシア文字

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のキリル文字の言及

【グラゴール文字】より

…スラブ語最古の文献の言語である古代教会スラブ語の文字としてキリル文字と共に使われた二つの文字の一つ。スラブの使徒といわれるキュリロス(スラブ名キリル)によって860年代に作られたといわれる。…

【言語政策】より

…大半の言語は(1)もしくは(3)の型に入り,(2)の例は珍しい。
[複合言語国家]
 例えば,旧ユーゴスラビアは言語的に複雑で,セルビア・クロアチア語,スロベニア語,マケドニア語が公用語としてそれぞれ用いられ,しかもスロベニア語とセルビア語はラテン文字で,クロアチア語とマケドニア語はキリル文字で表記されてきた。ほかにハンガリー語,トルコ語,スロバキア語,ブルガリア語,ルーマニア語が一部で話されている。…

【ロシア文字】より

…ロシア語で用いる文字体系の通称で,現行のアルファベットは母音字母10,子音字母21,記号字母2の合計33字母から成る(表参照)。起源的には9世紀末ブルガリアで成立したキリル文字にさかのぼる。10世紀末キリスト教(正教)の受容とともにキエフ公国に入ったキリル文字は日用の文字体系として定着普及し,16世紀後半には金属活字による印刷もはじまったが,18世紀初頭近代化をめざすピョートル1世は,教会図書をのぞく一般書印刷の促進のために,1音1字の原則で字母数を整理するとともに,新しい字体を選んで〈民間活字〉33字母を制定した。…

※「キリル文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android