もともとはロシア語で、シベリアに発達する広大な針葉樹林をさすことばであった。しかし現在では北半球の亜寒帯に分布する針葉樹林全体について用いられている。タイガはきわめて単純な森林で、おもにトウヒ属、モミ属、マツ属の常緑針葉樹からなり、単一の樹種からなることも多い。林内は暗く、林床にはコケモモなどの矮(わい)低木とコケ類が生育する。ただ、東シベリアの一部にはダフリアカラマツからなる落葉性のタイガがあり、山火事跡や湿地にはカバノキ属、ヤナギ属、ポプラ属などの広葉林からなる森林が現れる。
タイガの分布域は北緯50~70度の亜寒帯で、北極を取り囲むように分布する。北海道のエゾマツやトドマツの林はその最南部を占めるものとみなされている。南半球には分布しない。タイガの北限は森林限界で、南は温帯林またはステップに移行する。気候的には著しく年較差の大きい気温によって特徴づけられ、夏季には平均10℃を超えるが、冬季には零下数十℃まで下がる所が珍しくない。年降水量は少なく、400~500ミリメートル以下の所が多い。しかし雨は夏に集中するうえ、地下に永久凍土層があって、水の浸透を防いでいるため、砂漠にはならない。地面はむしろ湿りぎみで、土壌は強酸性のポドゾル(灰白土)となっており、泥炭地も多い。
タイガにはテン、キツネなどの毛皮獣が多く、開発はまずこうした毛皮獣を集めることから始まった。毛皮商人の進出がロシアの領土拡大につながったことはよく知られている。1990年代以降、シベリアでは森林の伐採が盛んになり、木材は大半が日本などへの輸出に回されている。しかし伐採によって地下の永久凍土が融け、その中に含まれていた大量のメタンガスが放出されることが明らかになり、地球温暖化を加速させるのではないかと危惧されている。なお、一部では夏の高温を利用して農業も行われるようになってきている。
[小泉武栄]
『斎藤晨二著『ツンドラとタイガの世界』(1985・地人書房)』▽『加藤九祚著『西域・シベリア タイガと草原の世界』(中公文庫)』▽『福田正己著『極北シベリア』(岩波新書)』
山地の針葉樹林帯をさすロシア語。転じてシベリアおよびロシア平原北部を占める広大な亜寒帯林をいう。北はツンドラ帯に接し,南限は,ロシアではサンクト・ペテルブルグ,ニジニ・ノブゴロド(旧名ゴーリキー),ペルミを結ぶ線の北方に,ウラル以東ではほぼシベリア鉄道沿いにその北側にある。現在は山地の針葉樹林を山地タイガと呼び分け,その南限はアルタイ山脈西部やサヤン山脈,シホテ・アリン山脈,北海道などで上記の線から南に突出している。また広義には,西ヨーロッパや北アメリカで北方松柏林boreal coniferous forestまたは単に北方林と呼ぶ,スカンジナビア,カナダ,アラスカなどの亜寒帯林や,アルプス,ヒマラヤその他高山の針葉樹林も,タイガ,山地タイガに含まれる。タイガは地球上最大の森林地帯で,全森林面積の1/3以上に及び,そのうちユーラシア大陸が55%,北アメリカ大陸が40%を占める。南半球は全部で5%に満たず,ほとんどが山地タイガである。タイガの約2/3は永久凍土帯にあり,その南でも冬は長く寒く積雪や土壌の凍結をみるが,夏が短いながらも気温上昇の著しい(平均気温10~20℃の月が1~4ヵ月)大陸性気候で,湿潤度も高い。とくに凍土帯では地表がとけて沼沢状となり,沼沢タイガ,ムスケーグ(カナダ)などと呼ばれる。主要構成樹種はマツ,トウヒ,モミ,ツガ,ネズ,カラマツなどの針葉樹と,カバノキ,ヤナギ,ハコヤナギその他の落葉広葉樹で,針葉樹林の極相,すなわち黒タイガでは近縁種の純林が多く,製材・パルプ工業の立地に好都合である。また毛皮獣の狩猟もさかんである。一方,南縁付近をはじめとして,二次林らしい広葉樹の比率の高い混合林もあり,白タイガとよばれている。
執筆者:佐藤 久
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…その南に森林ツンドラとさらに針葉樹の森林帯が続く。これはタイガと呼ばれ,西シベリア低地の3分の2を占める。エゾマツ,ハリモミ,アカハリモミ,カラマツ,シベリアマツなどが密生し,南端部にはシラカバやヤナギ類がある。…
…特異な平面形をもつものとして,ポカラ周辺のグルン族の楕円形平面の住居がある。【藤井 明】
【シベリア,中央アジア】
シベリアの自然環境を植物相から眺めると,北から南へツンドラ(永久凍土地帯),森林ツンドラ,タイガ(針葉樹林地帯),森林ステップ,ステップ(草原)地帯に大別される。そしてその南には,モンゴルや中央アジアの乾燥・半乾燥地帯がある。…
…(2)針葉樹林帯 ツンドラとボルガの上・中流に挟まれた北部ロシア全体からなり,含塩灰白土層におおわれている。モミ,ドイツトウヒ,カラマツが主体で,シベリアにかけて広がるうっそうとした森林は〈タイガtaiga〉と呼ばれる。南寄りのごく一部でわずかに穀物が栽培される。…
※「タイガ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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