マンシ(その他表記)Mansi

改訂新版 世界大百科事典 「マンシ」の意味・わかりやすい解説

マンシ
Mansi

ロシア連邦,西シベリア地方のオビ川下流域左岸に住む狩猟漁労民。ウラル語族のウゴル語系に属する言語ボグル語)を話す。旧称ボグールVoguly。人口約8500(1989)。東隣のハンティ族とともにオビ・ウゴルと総称され,ロシア,ヨーロッパ,アラブの古記録はユグラ(ユグリア)と呼んでいる。言語的には東ヨーロッパのマジャール人ハンガリー人)と最も親縁であるが,これはマジャール人が原ウゴルから別れて移住していったのに対し,オビ・ウゴルは原住地近くにとどまったためである。ユグラの本拠地がかつてはウラル山脈の西側に所在したことがロシアの《原初年代記》の記載から推定される。

 マンシではアイヌと同様,特定の川筋にそれぞれの集団が住みついており,集団には川の名(ソシワSos'va,シグワSigva,コンダKonda,ロジワLoz'va,ペリムPelym,タウダTavda)が冠される。オビ・ウゴルは一般に半定住生活を送っており,夏季には岸辺に営む集落で漁労に,川が凍結すると山中の冬営地に移り住んで肉獣,毛皮獣の狩猟に従事する。北方のソシワ,シグワ流域ではサモエード型のトナカイ飼育も行われる。また南方のタウダ川とその支流の流域ではタタールやロシア人に混ざって農耕牧畜に従事しており,しだいに同化されつつある。伝統的な宗教はシャマニズムであるが,17世紀以降ロシア正教へ強制的に改宗させられていった。しかし祖先崇拝や各種の動植物儀礼が根強く保持されており,特に仮面劇として上演されるマンシの熊祭は盛大な祝祭である。マンシは豊かな口承文芸を有することでも名高く,おもにハンガリー(A. レグリ,B. ムンカーチ),フィンランド(A. アールクビスト,A. カンニスト)の学者がこれを採録・研究してきたが,ロシア革命後はマンシ族出身の研究者もこれに加わってくる。マンシの作家,詩人ではM.バフルーシナ,Yu.N.シェスタロフが著名である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンシ」の意味・わかりやすい解説

マンシ
まんし
Mansi

ロシア、西シベリアのオビ川流域に住む民族。ほとんどがロシア連邦中央部のハンティ・マンシ自治区に住む。民族的・言語的にハンティ人ともっとも近い関係にあり、この両者はウゴルとして総称されるが、ウゴルはロシア人による命名で、彼らはマンシと自称している。人口はハンティ人が2万2521(1989)、マンシ人が8474(1989)。もともと南部のウラル平原に住む遊牧民であったが、タタール人やロシア人に追われて北に移動し、1000年ごろに現在地にきたといわれる。生業は伝統的には夏は猟地でテントに住み移動しながらの狩猟、冬は川近くに定住して漁労を行った。おもな獲物はヘラジカで、毛皮は交易に用い、肉は乾燥し細切りにして一種のペミカン(保存食糧)とした。ロシア革命後は集団農場に定住し、伝統的生業に加えて農業やトナカイ飼育を行い、一部は工場労働者として働いている。とくに南部の人々はロシア化が著しい。言語はフィン・ウラル語族のウゴル語派に属するマンシ語を話すが、多くはロシア語も話す。宗教的には17世紀ころからロシア正教会に所属するようになったが、伝統的な祖先崇拝とシャーマニズムを色濃く残している。

[片多 順]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「マンシ」の意味・わかりやすい解説

マンシ

ウラル山脈の東方と西方に分布する人びと。8474人(1989)。旧称ボグル。北方マンシを除き,生活,信仰ともロシア化。北方マンシは物質文化面でハンティサモエード諸族に似る。大半は漁労と狩猟に従事し,夏は河辺に仮小屋を建て漁労を行い,冬は毛皮獣を捕獲していた。言語はボグル語(マンシ語)。
→関連項目マンシ語

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

普及版 字通 「マンシ」の読み・字形・画数・意味

詞】まんし

言。

字通「」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内のマンシの言及

【ボグル語】より

ウラル語族のフィン・ウゴル語派中のウゴル諸語に属する言語で,オスチャーク語(ハンティ語)とともにオビ・ウゴル語を形成する。自称に基づきマンシ語Mansiともよばれる(マンシ族)。オビ川中流の西側およびソスワ,ロズバ,コンダなどの支流域にわたり話され,言語人口は7600(1979),このうち48.5%が母語としている。…

【ウラル語系諸族】より

…両者はそれぞれボルガ・カマ流域のボロソボ文化および南シベリアのアンドロノボ文化に比定されるが,とくに前者は従来までの狩猟・漁労に加えて牧畜・農耕を開始,生産経済に到達したのである。原ウゴル文化は前1千年紀中葉に原オビ・ウゴルと原マジャールに二分,前者が鉄器時代のウスチ・ポルイ文化を経て現存のハンティ族と,マンシ族に連なるのに対し,後者はその後遊牧化し,南ロシアを経由してパンノニアへ移住したマジャール人となる。原フィン文化は前2千年紀中葉に分裂,一方のペルミ・フィンは鉄器時代に栄えたアナニノ文化を経たのちさらに分かれて現存のコミ(ジリャン)族,ウドムルト(ボチャーク)族となり,もう一方の原ボルガ・フィンも前1世紀初頭には,のちのモルドバ(モルドビン)族,マリ(チェレミス)族の先祖に当たるボルガ・フィンと,バルト海東岸方面へ移住した原バルト・フィンとに分化する。…

【ハンティ族】より

…人口2万2300(1989)。ハンティ族は,北群(オビ川流域の河口からシェルカリまで),南群(オビ川沿いにさらに南下してイルティシ川流域のトボリスクまで),東群(ハンティ・マンシースクからオビ川中流域沿いに支流のバスユガン川流域まで)に三分され,文化的にも北群はマンシ族に,南群はタタールに,東群はセリクープ族により近い。しかしアス・ヤフAs‐jax(ハンティ語で〈オビ川の民〉を意味する)に由来する旧称オスチャークがかつてはハンティ族だけでなく,マンシ族の一部やセリクープ族(旧称オスチャーク・サモエード),ケート族(旧称エニセイ・オスチャーク)をも包摂したように,そこには言語的差異を超越する文化的共通性(例えば,川筋に半定住する狩猟・漁労民)が反映されていると思われる。…

※「マンシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android