翻訳|Gulf Stream
北アメリカ大陸の東岸フロリダ海流に源を発し,ハタラス岬沖合からニューファンドランド半島の南まで北東に向かって流れて北大西洋海流へと移行する大海流。メキシコ湾流,ガルフ・ストリームともいう。フロリダ海流とアンティル海流も含めて湾流といわれたこともあったが,その場合は湾流系と呼んで区別するのが,現在の慣用である。大西洋の西岸強化流(海洋大循環)であり,太平洋における黒潮に相当する。
コロンブスの航海時の水先案内人アラミノスAntonio de Alaminosは1513年メキシコ湾を発見したが,同時にフロリダ海峡に達して遡行できないほどの強い大海流に遭遇した。これが湾流で,アラミノスは西インドからヨーロッパに航海するときに海流を利用した最適航路を発見した最初の人となった。これ以後船乗りたちの間では湾流の存在が知られるようになったといわれている。しかし湾流の位置が海図上にはっきり示されるようになったのはずっと後のことで,17世紀の終りころに発刊された海流図がその最初とされる。さらに100年遅れてそれまで断片的で伝承的にしか伝えられなかった湾流に関する航海上のデータをまとめて一般公開したのが18世紀のアメリカの科学者,政治家のB.フランクリンである。1770年ボストンの税関からロンドンの大蔵大臣あてに〈ロンドンから来る郵便物が商船貨物に比べ2週間も遅れる〉旨の苦情があり,この謎を解くためフランクリンは縁戚の捕鯨船長フォルガーTimothy Folgerに尋ねたところ,郵便船が湾流に逆らって航海しているという事実が判明した。そこでフォルガーの描いた図をもとにして湾流図を郵便局で印刷して配布した。フランクリンはさらに採水器で水温を測ったりもしたが,その後,測器の開発とともに観測が断続的に行われるようになった。19世紀の初めころには既に冷水塊らしきものの記録もあるし,〈湾流は大変不安定で位置もよく移動するので限界を定め難い〉という報告もあり,現在知られている湾流の特質がかなり知られていたことがわかる。しかし湾流の科学的調査が本格的に行われるようになったのは20世紀に入ってから,とくに第2次世界大戦後のことである。なかでも1950年に施行されたキャボット観測Operation Cabotは6隻の船と2機の航空機を用いた画期的なもので,海洋観測史上に名を残すような業績をあげている。それ以来現在に至るまで観測が繰り返されており,湾流は黒潮と並んで世界で最もよく調査されている海流といえる。
観測量が増えるとともに,湾流は複雑な構造をもち,時間的にも空間的にもかなり変化していることが知られるようになった。しかし数ヵ月から1年くらいの平均をとればほぼ一定方向の流路と見なせる。これは太平洋における黒潮が二つの安定した流路をとるのと著しい対照をなしている。図1は1976年の2月から11月までの9ヵ月間における湾流系の流路変動を記録したものである。湾流は毎秒2~2.5mの速度にも達する強流帯であるが,その幅は案外せまく80km程度にすぎない。しかしその厚さは2000mにも達し,流量は毎秒8000万tという膨大な量と推測され,黒潮よりさらに大きな世界最大の海流といえる。2000mより深層には湾流とは逆方向の流れがあり,その流速は毎秒数cmから十数cmと報告されている。湾流の南側には高温で高塩分のサルガッソー海水(北大西洋中央水)があり,北側には大陸斜面水slope waterと呼ばれる低温・低塩分の水が存在する。さらに北側の沿岸付近には大陸棚水shelf water(沿岸水とも呼ばれる)がある。図2と図3に湾流近辺の水平および鉛直模式図を示した。図2のA点にある湾流の蛇行は渦の生成過程を表すもので,北側の冷水が取り込まれて冷水渦をなしている。逆にBは南側の暖水が取り込まれた暖水渦である。AやBがさらに成長して切り離されると独立した冷水渦や暖水渦となるが,周囲の海水と温度差があるため図2の矢印の方向に回転運動を伴うのが大きな特色である。また切り離された後は1ヵ所に停滞していないのが普通である。湾流域においては暖水渦より冷水渦の方が観測例が多く,冷水渦の切離しは一年に数回ある。またいったん生成された渦は消滅するまでに1年から1年半くらいかかると推定されている。図3は図2のC-D間を横断する鉛直断面であるが,湾流の進行方向の右側の水面が左側よりも高くその差は1mくらいと見積もられる。湾流は大西洋における西岸強化流で,その成因は大西洋全体の風系や太陽熱の分布に大きく依存している。
→海流
執筆者:宮田 元靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海の事典について 情報
「メキシコ湾流」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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