改訂新版 世界大百科事典 「エボシガイ」の意味・わかりやすい解説
エボシガイ
Lepas anatifera
ツメガイともいう。海洋に広く分布し,漂流物,船底,定置網のうきなどに付着し群生する蔓脚(まんきやく)亜綱エボシガイ科の甲殻類。体は背甲の変形した暗褐色膜状の外套(がいとう)に包まれ,扁平な楕円形の頭状部と棒状の柄部に分かれている。頭状部は長さ3~5cmくらい,外套表面には白色で石灰質の殻板が5枚あり,腹側に外套口が細く開いている。柄部は肉質で,頭状部の数倍の長さのものもある。頭状部の中には柔らかいキチン質に包まれた体部があり,頭胸部と痕跡的な腹部とからなる。頭部近くに強力な閉殻筋がある。胸部には多くの節と剛毛をもつ6対の蔓脚があり,外套口よりこれらを盛んに出入りさせて,プランクトンなど海中の食物をとらえる。精巣は体部のうちにある。雌雄同体であるが,体後方にある伸縮性に富む陰茎をのばし,近隣の個体に精子が送られる。卵巣は柄部にあり,卵は外套腔で受精する。ノープリウス幼生がかえり,浮遊生活を送りながら何回か脱皮し,メタノープリウスを経てキプリス幼生となる。キプリスは浮遊生活の終りに,固着に適した基盤を見つけ,第1触角基部にあるセメント腺から付着物質を出して付着,脱皮して成体の形となり固着生活に移る。柄部を基盤から注意して離すと,その底に触角の跡が残っている。日本名はその形から,英名goose barnacle,ドイツ名Entenmuschel,フランス名anatifeは貝状の頭状部からガチョウあるいはアヒルが生まれるとの古い俗説に由来しているという。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報