原索動物門尾索綱サルパ科に属する海産浮遊動物の総称。体は円柱状または樽(たる)形。入水孔は体前端に、出水孔は後端あるいは後背端に開く。体を環状に取り巻く体筋は一般に腹方で断絶し、種類によっては複雑に接着する。入水孔に続く咽頭(いんとう)の前端部を環状に囲む囲咽帯と、腹正中を縦走する長い内柱、および咽頭の前背正中部から後腹正中部に伸びる細長い棒状の鰓桿(さいかん)gill barとがつくる円錐(えんすい)形の空間が咽頭腔(こう)で、左右各側でこれら三者に囲まれた一つの大きな穴が鰓裂である。鰓桿を隔てて、咽頭腔の後背方に位置する腔所が囲鰓腔(排出腔)で、出水孔を経て外界と連絡する。食道は咽頭腔の後腹端に開口する。消化管(食道、胃、腸)は体核nucleusとよばれる小塊となり、囲鰓腔に肛門(こうもん)を開く。生時、種類によっては、半透明の虫体のなかに赤褐色など鮮やかな色彩の体核が浮かぶさまを、火をともした提灯(ちょうちん)に見立てて、「ちょうちんにら」ともよぶ。体筋を規則的に収縮させて前進・後退し、このとき咽頭腔に流入した有機物細片を、鰓裂にかけ渡した粘液のネットでとらえて摂餌(せつじ)する。
サルパは、世代交代現象が最初に発見された動物として名高い。種によっては全長20センチメートルにも達する単独個体(無性世代)と、それよりはるかに小形で一般に左右非相称の連鎖個体(有性世代)とが規則正しく交代するが、両者の形態が同一種でもかなり異なるため、かつてはそれぞれに別の種名があてられたこともある。単独個体の腹面にある芽茎の分節により、幼個体が2列あるいは輪状に配列した連鎖個体群が次々に生ずる。各連鎖個体は雌雄同体の生殖腺(せん)をもち、同調的な行動で浮遊群体chainを維持するが、のちに分離独立する。胚(はい)(通常1個、種によっては数個)は、親個虫の体内壁に付着したまま単独個体に直接発生し、親の体壁を破って外に出る。胚は脊索(せきさく)をもたない。
熱帯、亜熱帯の大洋を中心に南極地方を含む広い海域に出現し、ときに大群集をなす。大形回遊魚をはじめ種々の無脊椎動物や鳥類に捕食される。発光する種がある。これまでに2亜科13属45種が知られ、この半数以上が日本近海にも生息する。なお、ここで述べたサルパのほか、ウミタル、ヒカリボヤを含む分類群をもサルパ類Thaliaceaとよぶ。
[西川輝昭]
尾索綱サルパ目断筋亜目Desmomyariaに属する原索動物の総称。暖海性のプランクトンで,水面のごく表層に浮遊しているが,ときに海岸に大量に漂着することもある。世代によって形態が異なり,無性世代では単独個体,有性世代では連鎖個体になって世代交代をする。単独個体は円筒状で,体長は2~5cmのものが多いが,なかにはオオサルパThetys vaginaのように12~30cmになるものもある。前端に入水孔,後端か後背面に出水孔が開いている。体の周囲には体筋が取り巻いているが,種類によって数が異なり,またさまざまに断絶している。この体筋を収縮して水中を遊泳する。体内には広い咽頭と排出腔があり,両方の境界に棒状のえらと呼ばれる部分がある。また食物を集める内柱や心臓などもある。心臓の付近にある芽茎(がけい)の分節によって有性個体を鎖状に生じ,これらは端部から切れて遊離する。有性個体は雌雄同体で,卵巣と精巣を生ずる。代表的な種類にワサルパ,トガリサルパ,ツツサルパ,オオサルパ,ウミタルなどがあり,魚類の重要な天然飼料になっている。
執筆者:今島 実
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