ヒカリボヤ(読み)ひかりぼや

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒカリボヤ」の意味・わかりやすい解説

ヒカリボヤ
ひかりぼや / 光海鞘

原索動物門尾索(びさく)綱火体(かたい)目ヒカリボヤ科に属する群体性の海産浮遊動物の総称暖海を中心に広く分布し、おもに500メートル以浅でとれるが、2800メートルを超える採集記録もあり、また近年185メートルの海底から底生生活と考えられる種も報告されている。群体の共同外皮は寒天質あるいは軟骨質で中空円筒形、一端だけが開いている。群体の長さは、普通、数センチから数十センチメートルであるが、最近オーストラリアおよびニュージーランド沖でナガヒカリボヤPyrosoma spinosumの、長さ18メートル、太さ1.2メートルに達する巨大な群体が発見されている。個虫の長さは数ミリ程度。その構造や摂餌(せつじ)法はホヤと似ているが、入水孔と出水孔がちょうど180度反対側に位置することや、触手がなく発光器官をもつことなどで異なる。入水孔は群体表面に、そして出水孔は群体の内腔(ないこう)(共同排出腔)に開くので、水は群体の外から内に向かって流れ、群体の開口部から排出される。この噴出力で群体が移動するので個虫の同調的な活動が想像されるが、個虫どうしはごく細い繊維でつながっているだけらしい。雌雄同体で、受精卵囲鰓腔(いさいこう)に入って無性個虫に成長し、出芽によって4個の有性個虫を生じてテトラゾイド群体となり、親個虫の出水孔から共同排出孔を経て親群体を離れる。テトラゾイド群体は個虫の盛んな出芽によって群体を成長させる。このようにヒカリボヤは一生の間に一度も脊索(せきさく)を形成しない。

 その名のとおり群体は刺激により発光するが、光源は個虫の発光器官である。発光はここに凝集するバクテリアによるものとされ、このことは一時疑問視されたが、近年の一連の研究で確認されている。ヒカリボヤは魚の餌(えさ)となることがある。なお、この動物群の1種Pyrosoma atlanticum atlanticumにも、ヒカリボヤという和名がつけられている。

 最新の分類体系では、1科2亜科に3属9種5亜種が認められ、日本近海からは前述の2種を含め3種が知られている。

[西川輝昭]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒカリボヤ」の意味・わかりやすい解説

ヒカリボヤ
Pyrosoma atlanticum

原索動物門尾索亜門火体綱火体目ヒカリボヤ科。 0.3~0.8cmの赤橙色の個虫がたくさん集って,長さ 10~20cmの中空円筒状の群体をつくっている。群体の一端は閉じ,他端に共同排出孔が開く。また,入水孔は外側に,出水孔は共同排出孔に開いている。左右の囲咽帯に発光する部位があり,刺激を受けると青緑色に光る。温・熱帯海域表層に生活し,日本近海でもきわめて普通にみられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

放射冷却

地表面や大気層が熱を放射して冷却する現象。赤外放射による冷却。大気や地球の絶対温度は約 200~300Kの範囲内にあり,波長 3~100μm,最大強度の波長 10μmの放射線を出して冷却する。赤外放射...

放射冷却の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android