日本大百科全書(ニッポニカ) 「シダレヤナギ」の意味・わかりやすい解説
シダレヤナギ
しだれやなぎ / 枝垂柳
[学] Salix babylonica L.
ヤナギ科(APG分類:ヤナギ科)の落葉高木。イトヤナギともいう。枝は細く伸長し、下垂する。葉は披針(ひしん)形。早春、葉に先だち、長さ2~3センチメートルの花穂をつける。雌雄異株。雌花は腹側に1個の腺体(せんたい)がある。雄花は雄しべ2本、腺体は背腹に2個ある。葯(やく)は黄色で、紅色のものは他種との雑種と思われる。種名の示すバビロンの地には野生はなく、中国原産といわれる。日本への渡来は古く、各地の道端や庭園に栽植され、いけ花にも用いる。ロッカクヤナギ(六角柳)、セイコヤナギ(西湖柳)など、枝の長短、下垂の程度、葉の形やつき方などで品種が区別される。別種とされていたオオシダレヤナギS. ohsidare Kimuraは枝が太く、成葉は広く大きいが、シダレヤナギの変異とされる。
[菅谷貞男 2020年7月21日]
文化史
『万葉集』巻10にシダレヤナギ(垂柳(しだりやなぎ)、四垂柳(しだりやなぎ))が4首歌われている。当時は観賞以外に、枝を蘰(かずら)にして長寿や幸福を願った。中国では唐の高宗が3月3日に、ヤナギの枝の環をサソリの毒除(よ)けに臣に贈ったことが『燕京(えんけい)歳時記』(1906)にみられる。また、春分から15日目の清明節(せいめいせつ)に、子供の頭にヤナギをいただく習俗が近代まで残っていた。その日、女性がヤナギを球に結んで髪にさし、不老を願い、家の門に枝を挿して魔除けにする風習もあった。ヤナギに悪鬼を避ける力があるとの見方は古代にさかのぼり、6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』に正月の習わしとして載っている。
[湯浅浩史 2020年7月21日]