スターンフェルド(読み)すたーんふぇるど(英語表記)Joel Sternfeld

  • 1944―

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アメリカの写真家。ニュー・カラーの代表的な作家の一人。ニューヨーク生まれ。1965年にダートマス大学を卒業後、独学で写真を学ぶ。66年からフリーランスの写真家として風景や建築、ポートレートなどを撮影し、68年からはカラー写真に専念。76年から78年にかけてラッシュアワーの街角を撮影。35ミリカメラと4×5インチの大判カメラにストロボを用い、人ごみの中で匿名の存在と化した通勤者たちの不安な表情を捉えた。78年と82年の二度にわたってグッゲンハイム財団の奨学金を受ける。78年からおよそ8年間にわたりキャンピングカーで全米各地をまわり、8×10インチの大型カメラを用いて壮大な風景や小さな街、郊外などを撮影した。その成果は『アメリカン・プロスペクツ』American Prospects(1987)にまとめられている。作品はどれも一見したところ広いパースペクティブをもった端正な美しいカラー写真だが、いわゆる古き良きアメリカの原風景ではないことがわかる。火事を尻目にカボチャを買う消防士や、道路に横たわる象など、実はアイロニーとメランコリーに満ちた不可思議な光景ばかりなのである。ここには奇妙なもの、馬鹿げたもの、凡庸なもの、そして美しいものが混在している。そうしたアメリカの日常がもつ非日常的な部分が見事にとらえられ、アメリカという国のエッセンスをうかがい知ることができる。
 92年にはイタリア、ローマの遺跡を撮影した写真集『カンパーニャ・ロマーナ』Campagna Romanaを出版。歴代の芸術家たちが夢中になったローマ遺跡の過去と現在という二つの時間を、写真によって鮮やかに浮かび上がらせた。96年には写真集『オン・ジス・サイト』On This Siteを出版する。これはかつてアメリカ国内で暴力事件が発生した55か所を訪れ、もはや誰も訪れなくなった事件現場の風景を8×10インチの大型カメラで端正に写し取ったものである。その美しい風景写真と事件の概要を述べるキャプションの並置が、美のなかに潜む事件の悲惨さを逆に強く訴えるだけではなく、写真を見るとはどういうことか、という根本的な問いをも投げかけてくる。
 このように、スターンフェルドの作品に一貫してみられるのは、土地と記憶との関係、つまり土地に潜む過去と現在の問題である。さらにその問題は、アメリカ人のアイデンティティという問題にも絡んでゆく。2001年にサンフランシスコ現代美術館での個展にあわせて出版された『ストレンジャー・パッシング』Stranger Passing(2001)は、これまでになく人間に寄り添って撮影された、多種多様なアメリカ人のポートレート集である。アウグスト・ザンダーの作品を彷彿させるこの作品集は、スターンフェルドの新境地を開くものだともいえる。[竹内万里子]
American Prospects (1987, Times Books, New York) ▽Campagna Romana (1992, Alfred A. Knopf, New York) ▽On This Site (1996, Chronicle Books, San Francisco) ▽Stranger Passing (2001, Bulfinch Press, Boston)』

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