ストッダート(読み)すとっだーと(英語表記)Sir James Fraser Stoddart

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストッダート」の意味・わかりやすい解説

ストッダート
すとっだーと
Sir James Fraser Stoddart
(1942― )

イギリスの化学者。スコットランドエジンバラ生まれ。エジンバラ大学卒業、修士学位取得後、1966年同大学で博士号取得。カナダのクイーンズ大学、イギリスのシェフィールド大学で博士研究員、講師を経て、1990年バーミンガム大学教授、1997年アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校教授、2008年からノースウェスタン大学教授。

 1980年代から数ナノメートル(ナノは10億分の1)のサイズの分子機械の研究に取り組み、ダンベルの軸(握り手の部分)に輪を通したような構造の「ロタキサン(rotaxane)」という分子機械の合成に成功した。1994年には、酸などの刺激で軸にはまった輪を軸に沿って動かすことに成功した。これはロタキサンの応用例であり、縦にすると軸に沿った輪がエレベーターのように上下に動くことから、分子エレベーターともよばれる。さらに、筋肉のように伸び縮みする分子をつくることにも成功した。この成功で、分子サイズの超微細機械によるセンサーの開発などへの応用が期待されている。

 2007年テトラヘドロン賞、ファインマン賞、2008年アメリカ化学会のアーサー・C・コープ賞などを受賞。2016年「分子機械の設計と合成を行った功績」によりフランスの化学者ジャンピエールソバージュオランダの化学者ベルナルト・フェリンハノーベル化学賞を共同受賞した。

[馬場錬成 2017年3月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ストッダート」の意味・わかりやすい解説

ストッダート
Stoddart, J. Fraser

[生]1942.5.24. エディンバラ
イギリス生まれのアメリカ合衆国の化学者。フルネーム Sir James Fraser Stoddart。1966年にエディンバラ大学で博士号を取得し,クイーンズ大学,シェフィールド大学,インペリアル・ケミカル・インダストリーズ研究所,バーミンガム大学を経て,1997~2007年アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校 UCLA教授,2008年以降ノースウェスタン大学教授。2007年ナイトに叙された。1983年にフランスの化学者ジャン=ピエール・ソバージュらのグループが,2個のリング状分子が自由に動けるようにつながったカテナンの合成に成功したのに続き,1991年にストッダートらはリング状分子の中心(穴の部分)に棒状分子の軸を通し,リングがはずれないよう軸の両端をストッパー的な構造にした複合分子ロタキサンを開発した。また,軸の一部に電荷を与えることにより,リング状分子を軸に沿って直線的に往復運動させることにも成功した。そしてロタキサンのリングの往復運動を利用して,分子の一部が 0.7nmだけもち上がる「分子エレベータ」や,往復運動を 1ビットのスイッチに見立てた「分子コンピュータ」をつくった。2016年,「分子機械」と呼ばれる物質の設計および合成が評価され,「分子モータ」を開発したオランダの化学者ベルナルト・フェリンハ,およびソバージュとともにノーベル化学賞(→ノーベル賞)を受賞した。

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