音の波形に応じて変化する電気信号を再びもとの音に変えて,空間に放射する働きをするもの。拡声器ともいう。英語ではラウドスピーカーloudspeakerで,単にスピーカーspeakerとすると〈話す人〉の意に誤解されるおそれがあるので注意を要する。また,一般にスピーカーというときは,電気を音に変える働きをするもの(スピーカー単体)だけを指す場合と,スピーカー単体およびそれを収容する箱(エンクロージャー)の両方を指す場合がある。なお,JISでは,〈電気系から音響系へ変換する電気音響変換器で,音を放射することを目的とするもの〉と定義している。
スピーカーは,その動作,構造,用途などにより,いろいろな分類方法が考えられるが,まず電気信号を音に変換する方法(電気音響変換の方法)の違いにより分類すると次のようになる。(1)動電形スピーカー ダイナミックスピーカーともいう。直流磁場におかれた導線に電流を通じると,フレミングの左手の法則に従って導線に力が作用する。そこで,この原理を応用するため,永久磁石などによって作られた直流磁場に,可動コイル(ボイスコイルと呼ばれる)を図1のように正しく保持する。この可動コイルに信号電流を通じると,信号電流の向き(極性)と大きさに対応した力が,フレミングの左手の法則に従って可動コイルに作用する。この力によって振動板(例えばコーン紙など)を振動させて音を放射する。現在,ハイファイ再生用として実用されている代表的なものの一つである。(2)電磁形スピーカー 永久磁石にコイルを巻きつけ,その近くに強磁性の振動板を配置する。コイルに信号電流を通じると,信号に対応した交流磁場が生じ,それにより振動板を振動させる。特性があまりよくないこと,大きな出力を得にくいことなどの理由により,現在ではほとんど使用されない。(3)静電形スピーカー コンデンサースピーカーともいう。コンデンサーの二つの電極に電圧を加えると,かけた電圧に対応して電極の間に力が生ずる。静電形スピーカーはこの現象を利用するもので,金属の振動板と固定電極によって形成されるコンデンサーに,直流バイアス電圧に信号電圧を重畳して加え,振動板を振動させる。振動板全体に均一に駆動力が加わり,また優れた周波数特性が得られる。動電形に次いで多く用いられる。(4)電歪(でんわい)形スピーカー 電圧を加えると変形する物質に信号電圧を加え,信号電圧に対応して生じた変位を振動板に伝えて振動させる。
なお,このほかに磁場の強弱によって伸縮する磁歪材料の変位を振動板に伝える方式の磁歪形,信号によって変調された高圧の高周波電圧を電極間に加えて放電させる方式の放電形,加圧された空気の流れる量を,信号に対応して弁を開閉することにより制御する方式の気流形,炎の中に二つの電極を置き,直流電圧に信号電圧を重畳して加える方式の火炎形などがある。
次に,スピーカーが音を空気中に放射する方法の違いにより分類すると次のようになる。(1)直接放射形スピーカー 直径数cmないし数十cmの振動板から音を直接ホーンなどは使わず空間に放射する。振動板は軽く,しかも一体となって振動する必要があり,円錐状の紙(コーン紙)が使われることが多い。そのため,コーンスピーカーともいう(図2)。前述の動電形の変換器と組み合わされ,さらに種々の技術的な改良が加えられてハイファイ用として広く用いられる。電気音響変換能率(一定の電気入力に対する音響出力の割合)は,0.5~10%程度のものが多く,次に述べるホーン形スピーカーの能率に比較すると低い。(2)ホーン形スピーカー 直径数cm程度の振動板を,小さな空室を介してホーンに結合し,ホーンを通して音を空間に放射する(図3)。変換器としては,原理的には種々の形式のものを用いることも可能だが,余裕のある駆動力が要求されるため,実用されているもののほとんどは動電形である。電気音響変換能率は30~40%とよいが,その反面,1個のホーンスピーカーだけで,再生帯域を広くすることは一般にはむずかしい。また,低音域を十分に再生するにはホーンを大きく(例えばホーンの開口面積が1~4m2)する必要がある。
ホーンの形には,パラボリックホーン,コニカルホーン(円錐状のもの),エクスポネンシャルホーン(図3),ハイパボリックホーン,ステップホーン(ホーンの断面積が階段状に変化するもの),多数結合ホーンなどがある。ホーンの大きさ,特性,製作の難易などによりそれぞれ一長一短があるが,スロート部からホーンを見た音響インピーダンス特性が広い帯域にわたり平たんであり,かつ変換能率もよいという理由でエクスポネンシャルホーンがよく用いられている。
さらに,指向特性の改良(ホーンの中心線上からずれた位置で聴いても良好な周波数特性を得るための改良)が加えられ,次々と新しいホーンが開発されている。例えば,小口径ホーンを集めて大型ホーンとしたマルチセルラホーン,扇状のラジアルホーン(セクトラルホーンともいう),ホーン開口部を細い隙間状にしたディフラクションホーンなどがある。
スピーカーは,なるべく高い電気音響変換能率をもち,ひずみが少なく,広い周波数帯域にわたる平たんな特性および目的に合う良好な指向特性をもつことが望ましい。そのために,直接放射形スピーカーを中心として,種々の技術的改良が行われてきた。位相反転バッフルは,スピーカーの振動板の背後に生ずる音波を,適当な位相の変化を与えてスピーカーの前面に放射するような構造のバッフルで,低域の特性改善に有効である。〈バスレフ〉と呼ばれることも多い(図4)。スリーウェースピーカーシステムは,再生周波数帯を3分割し,それぞれを低音用(ウーハー),中音用(スコーカー)および高音用(ツィーター)で受けもたせるようにしたスピーカーシステムである。パッシブラジエーターはドロンコーンともいい,位相反転バッフルの音響管(筒状の穴)の部分に取りつけた振動板である。この振動板にはボイスコイルや磁気回路などの電気音響変換用の素子はなく,音響管の音響インピーダンスを調節し,系の共振周波数付近でよく振動して低音の放射を助長させるために用いられる(図5)。
スーパーディジタルオーディオ(CDを超えるハイビット,ハイサンプルによる,より一層高品質を目指すディジタルオーディオ)など,より一層の高品質化へ向けての研究開発が進められ,広いダイナミックレンジ,信号対雑音比の一層の改善が図られている。性能の改善にあたっては,振動板の材料や形の改良,開発など,新しい技術に負うところが大きい。ハイビジョン壁かけテレビ用薄型スピーカー(厚さ10cm以下)も開発されている。
執筆者:中林 克己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…例えばマイクロホンは音波が伝える信号を電気信号に変換するトランスジューサーで,空気圧という信号の媒体を電圧という媒体に変えるものである。また,スピーカーは電気信号を音の信号に変換するトランスジューサーであるが,一度取り込まれた信号に手を加えたものを出力するという点でマイクロホンとは使用目的が異なっている。前者を入力トランスジューサー,後者を出力トランスジューサーと呼ぶことがある。…
※「スピーカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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