エンクロージャー(読み)えんくろーじゃー(その他表記)enclosure

翻訳|enclosure

デジタル大辞泉 「エンクロージャー」の意味・読み・例文・類語

エンクロージャー(enclosure)

中世末から近代にかけて、特に英国で、それまで開放耕地制であった土地を、領主や地主が牧羊場や農場にするため垣根などで囲い込み私有地化したこと。その結果、耕地を失った農民の都市流入や賃労働者化を招いた。囲い込み。
オーディオ機器キャビネットのこと。

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精選版 日本国語大辞典 「エンクロージャー」の意味・読み・例文・類語

エンクロージャー

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] enclosure ) 共同利用(共同権)が認められている耕作地放牧地を、柵(さく)などの境界標識で囲い、共同利用を排除して私有地とすること。一五世紀末から一九世紀初頭に、ヨーロッパ、特にイギリスにその典型的な例が見られ、毛織物工業の発展に伴う牧羊地の獲得や資本主義的大農場の経営を目的として、領主、富農がこれを行ない、失業、離村した中小農は農業労働者、工業労働者に転落した。囲い込み。囲牆(いしょう)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンクロージャー」の意味・わかりやすい解説

エンクロージャー
えんくろーじゃー
enclosure

「囲い込み」と訳される。従来共同利用が認められていた土地に、生け垣、塀などを巡らして私有地であることを明示することをいう。イギリス史において、エンクロージャーが大規模に行われ、社会の大問題となったのは前後2回ある。

[角山 榮]

第一次――農民的、領主的エンクロージャー

第一次エンクロージャー運動は、15世紀末から17世紀中ごろにかけて起こった。第一次エンクロージャーには二つのタイプがみられた。一つは、農民たちが共同体的規制から解放され、個人主義的農業を営むために、その分散した保有地、地条を相互の合意によって交換し、まとまった農地にする農民的エンクロージャーである。いま一つは、領主的エンクロージャーで、これは領主が主として牧羊場にするために、農民の利害を無視して暴力的に耕地や共同地を囲い込んだもので、ミッドランド地方を中心に吹き荒れ、大きな社会問題を引き起こした。トマス・モアが『ユートピア』のなかで「羊が人を食う」といったのもこのときのことである。土地を追われた農民は浮浪人となって全国をさまよい歩いた。そこで政府は、エンクロージャーによる治安の乱れと人口の減少を恐れて、しばしばエンクロージャー禁止令を出したが、これを抑止できず、そのためにエンクロージャーに反対する農民一揆(いっき)が各地で頻発した。

[角山 榮]

第二次――議会エンクロージャー

ついで18世紀初めから19世紀中ごろまで続いた第二次エンクロージャーが起こった。これは改良農法の必要のために起こったもので、大地主が議会を通じて個別的にエンクロージャー法を獲得し、合法的に土地を囲い込んだので、これを「議会エンクロージャー」とよんでいる。議会エンクロージャーは、四種輪作法など新農法が普及し始めた18世紀中ごろから急速に増加し、都市における産業革命の進展に大きな役割を果たした。

 しかし、個々の立法措置によって囲い込むことは、弁護士とか調査員、技術者の経費、垣をつくる経費などが高くついたので、その経費を少しでも緩和するため、1836年および45年の法令によって、一定の条件さえ整っていれば囲い込みできることになった。こうして、イギリス全土はほぼ完全に囲い込まれてしまい、中世以来の三圃(さんぽ)式開放耕地、共同牧草地、荒蕪(こうぶ)地は姿を消して、私有化された耕地になった。ただ、1865年以後「共同地保全協会」Commons Open Spaces and Footpaths Preservation Societyその他の自然保護団体の運動によって、北部諸州の荒地をはじめ、ウィンブルドン・コモンWimbledon Common、ハンプステド・ヒースHampstead Heathなど全国で約150万エーカー(イングランド・ウェールズの全面積の約4%)の共同地が囲い込みを免れた。

[角山 榮]

第二次エンクロージャーの影響

ところで、囲い込まれた耕地では、地代が騰貴するとともに、穀物生産のための資本主義的大農経営が行われ、農業生産力は著しく上昇した。とくに1793~1815年のナポレオン戦争時には、国内市場および軍需用の食糧需要増大を背景に、農業は繁栄し、それがまたエンクロージャーをいっそう促進した。一方、囲い込みによってヨーマン独立自営農民)ないし小土地所有者の没落が促され、彼らは工業労働者として都市へ流出するか、農業労働者として農村にとどまった。ただ、ヨーマン層の没落については、18世紀中ごろまでに姿を消していたという旧来の説に対し、最近では、没落期をナポレオン戦争後の不況期以後に置く説が有力である。こうした農業革命の結果、イギリスの農業人口の比率は、1750年ごろには約70%であったのに、1831年には24.6%、1851年には21.7%へと急激な減少を示したのである。

[角山 榮]

『小松芳喬著『イギリス農業革命の研究』(1961・岩波書店)』『椎名重明著『イギリス産業革命期の農業構造』(1962・農業総合研究所)』


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改訂新版 世界大百科事典 「エンクロージャー」の意味・わかりやすい解説

エンクロージャー
enclosure
inclosure

土地の周囲を生垣,石垣,土手等で囲い込むこと,あるいは囲込み地のことをさし,単に〈囲込み〉とも呼ぶ。開放耕地制度下における共同体的土地所有・利用(共同耕作,共同採草,共同放牧等)を廃止し,土地の私的所有,個人的利用を実現するために行われたものであり,イギリス農業の近代化にとってきわめて重要な役割を果たした。なかでも重要なのは,16世紀の〈第1次エンクロージャー〉と18世紀後半から19世紀前半にかけての〈第2次エンクロージャー〉である。

 イギリスでは,15世紀末から国内毛織物工業が盛んになり,羊毛に対する需要の増大とともに羊毛価格も上昇し,したがって牧羊が盛んになった。それにつれて,封建領主たちは農民を追放し,マナー(荘園)の開放耕地を囲い込んで大牧羊場に転換した。〈羊が人間を食う〉(トマス・モア)といわれたこの〈農民を追放する囲込み〉は,囲込みを行う側にとっては〈黄金の蹄〉が多くの富をもたらしたから,絶対王政の抑止策,すなわち〈囲込み禁止諸法律Depopulation Acts〉にもかかわらず,ほぼ1世紀にわたって続けられた。その結果,〈廃村〉や〈過疎の村〉が方々にみられ,開放耕地制を土台とする中世農村の姿は大きく変貌した。イギリス史上これを〈第1次農業革命〉と呼ぶ。しかし,この〈第1次エンクロージャー〉の影響を受けたのは,ミッドランド地方(イングランド中部)を中心とするごく一部分(面積にして約20万ha,農用地総面積の3%未満)にすぎなかった。

 17世紀半ばの〈イギリス革命〉により,絶対王政の囲込み禁止法律は廃止されたが,それでもまだミッドランド地方や北部および南部・東部諸州には広範に開放耕地や共同放牧地,共同採草地が残っていた。それらは18世紀,とくに60年代以降に始まる〈議会エンクロージャー〉,すなわち,議会の制定法による大々的な囲込みの動きによって,ほぼ19世紀半ばごろまでに姿を消した。〈第2次エンクロージャー〉は改良農業,つまり耕地の場合は輪栽式を,牧畜の場合は大規模な放牧を行うことを目的とした。この運動の中心をなす議会エンクロージャーは,17世紀以後の関係者全体の〈協議に基づく囲込み〉とは異なり,関係土地所有者の過半(3/4とか2/3)の合意により,しかも人数の多数決ではなくて所有面積をもって決定され,法律による囲込みとして強制されたから,18世紀後半~19世紀前半の100年たらずの期間に,件数にして約4500,面積にして255万haちかい土地が囲い込まれた。大土地所有者・資本家的大経営者・農業労働者という3階級構成(いわゆる〈三分割制tripartite division〉)をもって特徴づけられるイギリス型の資本制農業はこのようにして成立し,同時に多くの農村民は都市の労働者になった。これを〈(第2次)農業革命〉と呼び,イギリス産業革命の一環をなすものとみる。
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百科事典マイペディア 「エンクロージャー」の意味・わかりやすい解説

エンクロージャー

開放耕地下の耕地と共同地を垣根などで囲い込み,共同用益権を排除すること。囲込み運動とも。牧羊と農業改良を目的とし,その典型は英国で第1次(15世紀末―17世紀半ば)と第2次(18世紀半ば―19世紀初め)の2度行われ,農業の資本主義化と農民の賃労働者化とを促進した。
→関連項目開放耕地制度原始的蓄積産業革命農業革命分割地農民

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エンクロージャー」の意味・わかりやすい解説

エンクロージャー
enclosure; inclosure

未開墾地,共有地,開放耕地などを石垣,生垣その他の標識で囲み私有地であることを明示すること。「囲い込み」と訳される。その中では共同体的諸規制から離れた個人本位の資本主義的土地経営が目指される。普通イギリスについていわれるが,他のヨーロッパ諸国における同様の現象もそう呼ばれることがある。イギリスでは 15世紀末から 17世紀中葉にかけて第1次エンクロージャーが,主として牧羊のために領主の手で非合法的に行われ,土地を追われた農民が浮浪者となり廃村も出現した。産業革命と並行して 18世紀後半から 19世紀前半には第2次エンクロージャーが農業生産の向上を目指す大農経営のために行われた。第2次のものは議会立法によって推進され,第1次よりはるかに広範囲に及んだ。その結果自営農民層は農業資本家と賃金労働者に分化し,イギリス農業の三分制度が確立した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「エンクロージャー」の解説

エンクロージャー
enclosure

16~19世紀のイングランドで行われた土地の囲い込み。境界の明確でない開放耕地制のもとでの混在耕地や共有地を囲い込んで,土地の生産性を上げようとしたもの。農業革命を伴った。第1次のそれは16世紀に行われ,主として牧羊地への転換を目的にしたが,多くの農民が土地を追われ,激しい批判を生み,王権により禁止された。第2次のそれは17世紀以降に,新農法の採用による穀物の増産を図るものであったが,議会立法による承認を必要とした。いずれにおいても農業における資本主義経営の樹立に寄与した。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「エンクロージャー」の解説

エンクロージャー

もともとは筐体という意味で、コンピューターやスピーカの「箱」を指す言葉。コンピューターをユニット化したブレードサーバーやラックサーバーでは、複数のユニットを収容するための入れ物をさす。また、記憶媒体を収容する「ディスクエンクロージャ」などもある。ラックサーバーにおいては、アメリカ電子工業会(EIA)で規格化されており、同一カテゴリ内で互換性がある。

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旺文社世界史事典 三訂版 「エンクロージャー」の解説

エンクロージャー

囲い込み

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世界大百科事典(旧版)内のエンクロージャーの言及

【移民】より

…17世紀末以降18世紀半ばまで,イギリスはオランダ,フランスとの断続的な戦争を繰り返すが,戦後は失業した兵士と犯罪件数の増加が社会問題となり,これを植民事業によって解決しようとした。一方,イギリスではヨーロッパの他国に先がけて地主によるエンクロージャー(土地囲込み)が進み,高騰した地代を払えない農民が移民となった。彼らは年季契約移民ほど貧しくなく,家族ぐるみで移民し,新大陸での土地購入を目的とした。…

【原始的蓄積】より

…そこで,領主,商人,上層自営農民たちが,牧羊経営のために従来の共同地を暴力的かつ投機的に囲い込み,多数の農民を農村から追放した。これがいわゆる第1次エンクロージャーである。また18世紀から19世紀初めにかけては,農業技術の進歩にともなって,耕地および共同荒地の大規模な囲込みが進められた。…

【賃労働】より

…だから賃労働が支配的な形態となるためには,単なる社会への商品経済の浸透だけではなく,封建的な束縛から解放され,またこれといった生産手段をもたず,したがって生活手段ももたない,いわゆる〈二重の意味で自由〉な労働者が歴史的にまた恒常的につくりだされねばならなかった。歴史的には,これは封建的家臣団の解体やイギリスで最も典型的にエンクロージャー(囲込み運動)として現れた農民の土地からの追い出しによって行われた。 労働の対価として受けとる賃金労働力の価値に相当し,したがって労働者は労働力を再生産するに必要な生活資料を買い戻せるにすぎないことによって,労働者が資本の再生産過程に繰り返し登場する。…

【麦】より

…ただし,このような農法(コムギ→クローバー→オオムギ→カブ)を行うためには,従来のような分散所有制(農民の所有する耕地が多くの小地片に分かれて,村の中に分散している状態)から個人農場制(交換分合によって1ヵ所に耕地を集中し,その周囲に垣根をめぐらす状態)に変換されなければならない。これを〈囲込み〉(エンクロージャー)という。囲込みの進展とともに,畜産物と麦,とくにコムギの生産は飛躍的に増加した(農業革命)。…

※「エンクロージャー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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