①について、琴を伴奏に叙情性の強い短いものを「歌」とよぶのに対し、「語り」は比較的長く無伴奏で節をつけたものをいう。元来共同体の宗教的儀礼の場で伝承を語っていたものが発展、形式化して、令制以前に職業的集団となった。
古代の職業部の一つ。古伝承を語り伝えて宮廷の儀式で奏上した。『延喜式(えんぎしき)』によると、践祚大嘗祭(せんそだいじょうさい)に、伴宿禰(とものすくね)、佐伯(さえき)宿禰は、美濃(みの)8人、丹波(たんば)2人、丹後(たんご)2人、但馬(たじま)7人、因幡(いなば)3人、出雲(いずも)4人、淡路(あわじ)2人の語部を率いて参加し、語部の古詞(ふるごと)を奏した。「其(そ)の音、祝詞(のりと)に似たり」という古詞の内容は現在伝えられていないが、おそらく天皇霊の「死と再生」の始源の物語や、その継承の由来伝承であったと想像される。それが宮廷儀礼に取り入れられる以前の段階には、地方豪族の首長権継承にあたって、各地の聖水における御阿礼(みあれ)(神の誕生)や御贄(みにえ)貢進の寿詞(よごと)として、さまざまに伝えられたもので、その背景には新嘗(にいなめ)の神事が存在したようである。現在、確認される語部の分布が、東は遠江(とおとうみ)、美濃、西は出雲、備中(びっちゅう)の範囲を出ないので、案外早い時期に宮廷の儀礼に入れられたと考えられている。
[井上辰雄]
『井上辰雄著『古代王権と語部』(1979・教育社)』
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