スポイルズ・システム(読み)すぽいるずしすてむ(英語表記)spoils system

翻訳|spoils system

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スポイルズ・システム」の意味・わかりやすい解説

スポイルズ・システム
すぽいるずしすてむ
spoils system

猟官制と訳される。公職任免を党派的情実によって行う政治的慣習メリット・システムと対比される。このことばの由来は、19世紀の中葉アメリカ合衆国の上院議員マーシーのいった「獲物勝者のもの」To the victor belong the spoils.にあるといわれている。さて、売官や政治的情実任命は、絶対主義の時代においては君主の官房財政を富ます手段として盛んに用いられたし、市民革命後19世紀前半までのイギリスなどでも「情実主義patronageの時代」と特徴づけられるほどそれが盛んであった。しかしこの後者においては、議会の実権を握る地主議員がその一族郎党官職・年金を与える「恩恵的情実主義」とともに、選挙運動での功績代償として官職・年金を与える「政治的情実主義」があり、とくに後者は、国王の有力な支柱であった官吏を国王から切り離して議会とその有力政治家のコントロール下に置くという一定の進歩的意義をもっていた。

 しかし公職の情実任免がもっとも大量的に行われたのは、1828年に始まるジャクソン民主政期以降のアメリカにおいてであった。ジャクソンは当時発展しつつあった西部独立自営農民南部の小プランターを社会的基盤とし、その重要な戦略目標として連邦政府官職の東部エリートによる独占の打破と普通人への開放を掲げ、そして大統領の「更迭政策」と猟官制の正当性を、「官職がもっぱら人民の利益のためにのみつくられる国においては、いかなる人間も他の人間に比して、公職に就任するより多くの固有の権利をもつわけがない」という「官職交替制」の原則に求めたのである。アメリカで猟官制がとくに発達した理由としては、このようなアメリカの民主主義的政治風土のほかに、この国の統治機構の特質――三権分立と連邦制という水平的・垂直的権力分立制をとったことからくる公職の数的大きさ、大統領・州知事などの広範な官職叙任権、これらの分離された諸機関の相互関係を背後から調整する機構としての政党の発達――があげられよう。しかし19世紀の後半になるとイギリスでもアメリカでも猟官制の弊害――政治的腐敗、行政上の非能率など――が著しくなり、やがてメリット・システムにとってかわられることになる。第二次世界大戦前のわが国でも、とくに大正末から昭和初めのいわゆる政党政治の時代に、政府与党がその意に添わぬ官吏を自由に罷免しえた一時期があった。

[田口富久治]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「スポイルズ・システム」の解説

スポイルズ・システム
Spoils System

猟官制ともいう。選挙で勝利した政党が票集めに奔走した党員に論功行賞として公職を与える制度。アメリカ第7代大統領のジャクソンが連邦政治の分野に積極的に導入した。エリート階層による世襲的な官職独占に終止符を打とうとするものであったが,やがて適任者でなく忠実な党員が公職に選ばれるという弊害が出てきたため,競争試験による公務員任用制度が導入(1883年)された。しかし政権交代とともに大統領が任命する公職は現在でも多いから,論功行賞的任命はなくなっていない。

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百科事典マイペディア 「スポイルズ・システム」の意味・わかりやすい解説

スポイルズ・システム

猟官制と訳す。公職の任免を党派的情実で定める政治的慣習。政党政治の早く発達した国,特に19世紀初めの米国で顕著にみられた。19世紀後半以降次第にメリット・システム(資格任用制)が採用されたが,米国では今日でも政権交代のたびに各省庁の局長以上は大統領が任命し,このシステムが生きている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スポイルズ・システム」の意味・わかりやすい解説

スポイルズ・システム

猟官制」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のスポイルズ・システムの言及

【キャリア・システム】より

…こうした必要にこたえて,キャリア・システムの確立が現代の公務員制度の中心的課題になっている。とくにアメリカでは,終身雇用,年功序列の強い日本とは異なり,スポイルズ・システム(猟官制度)と呼ばれる政治的情実任用が広範に行われてきた。その後,メリット・システム(業績主義)による資格任用制が拡大してきたが,今日でも高級公務員については,依然として政治的任用が広く行われている。…

【政治家】より

…〈勝ったものが戦利品を独占する〉という原則は,1828年に当選したジャクソン大統領のもとで制度化された。大統領選挙における自党の勝利につくしたという資格だけで,いわば素人の政治家が上は重要な官職から下は地方の郵便局長にまで任命されるこの猟官制度(スポイルズ・システムspoils system)は,当然に腐敗と浪費をともなったが,イギリス,アメリカがともにヨーロッパ大陸諸国のような官僚制統治を長く免れた理由はこの政治家の自治能力の高さにあった。そのイギリス,アメリカにおいても,19世紀半ば以降,公務員の任用についての資格試験制度(メリット・システムmerit system)が導入され,公務員の地位が保障されると同時に公務員の政治参加に一定の制限が加えられることになり,政治家とはもっぱら選挙制による中央,地方の議員,地方自治体の首長,大統領を指すようになった。…

【メリット・システム】より

…一般に資格任用制や成績制と訳されている。アメリカでは,建国以来公務員の任命を党派的情実によって決定する政治慣習であるスポイルズ・システム(猟官制度)がはびこっていたが,この制度の下では適任者が公務員に就任するとは限らず,種々の弊害を生み出していた。1883年,連邦政府はペンドルトン法Pendleton Act(〈連邦公務員法〉の通称)を制定し,公務員が試験の成績(メリット)によって採用される基礎を築いた。…

【猟官制度】より

…スポイルズ・システムともいう。公職の任免を党派的忠誠や情実によって決める政治慣行のことをいう。…

※「スポイルズ・システム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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