スルナイ(その他表記)sūrnāy[ペルシア]

改訂新版 世界大百科事典 「スルナイ」の意味・わかりやすい解説

スルナイ
sūrnāy[ペルシア]

オーボエ属の気鳴楽器の一種。西アジアを中心に西は北アフリカ,ヨーロッパ地中海域,東はインド,東南アジア,中国と広く分布する。ダブル・リードで音を発する木製の管楽器円錐状の管孔をもち,基本的には大部分のものが前面7孔,裏面1孔という同一の構造をもっているが,各文化圏により名称や大きさ,材質などに微妙な違いが見られる。ペルシア語の呼称は〈祭sūrの笛nāy〉の意で,トルコのズルナzurna,北インドのシャーナーイshahnāi,インドネシアのスルナイserunai等のようにペルシア語に由来した呼称が行われている一方,チベットギャリンrgyaling,タイのピーpīなどのようにペルシア語からは遠ざかっているものもある。中国では明代に伝えられソーナースオナーなどと呼ばれ,鎖吶,鎖などと記され,清代には嗩吶,蘇爾奈とも書かれた。朝鮮では太平簫または胡笛と称され,日本には江戸時代末期に清楽合奏明清楽)の楽器として伝えられ,嗩吶(さない)と呼ばれた。アラビア語では,古来ミズマールmizmārの名で知られ,今日のエジプトでは大型のものをミズマール・バラディーmizmār baladī,小型のものをスイブスsybsと呼ぶ。ギリシアではズルナというトルコ名のほかにカラムツァkaramoutsaやピピザpipizaの名称も使われている。

 北インドのシャーナーイは,木製の管がしだいに広くなっているなだらかな円錐形でふつう8~9孔あるが,実際に用いられるのは上部の7孔で,あとの孔はワックスをつめて閉じるか,開けたまま使わない。複式のリードは,管の上に直接差し込むものと,留金をつけて差し込むものとがある。スペアのリードが常に用意され,散逸しないよう紐に結んで管に結びつけてある。

 スルナイは本来が野外音楽用であるから,音量もきわめて大きく,イスラム世界の祭り,割礼,結婚の祝の歌舞の伴奏や,軍楽の楽器として不可欠な存在であった。民俗舞踊の伴奏では,リズムをとるためのダウル,タブルなどの太鼓とともに重要な地位を占めている。北インドのシャーナーイの用途もこの伝統の流れを受けているが,ほかに,最近では古典音楽の演奏にも加わるようになった。

 中国の嗩吶は当初は軍楽で用いられ,後に南曲,北曲の戯曲音楽の唱の伴奏でも使われた。円錐状の管の下端に銅またはシンチュウ製の朝顔形のものをつけている。指孔は前7,後1の8孔。ダブル・リード。吹口にさしたリードに銅口と呼ばれるすべり止めのベル形金具がついている。大小さまざまのものがあるが,華北地区の嗩吶は,音域によって(1)高音嗩吶 音域1点イ~3点ロ,(2)次高音嗩吶 音域1点イ~3点ホ,(3)中音嗩吶 音域イ~2点ロ,(4)海笛(形の一番小さな嗩吶) 音域1点ロ~4点ハ,の4種に分けることができる。民間の結婚式,葬式の行列や吹打楽の合奏,地方戯曲や民間歌舞の伴奏に不可欠の楽器で,京劇中では式場に属し,各種の嗩吶曲牌を演奏する。海笛は元来は崑曲の伴奏楽器である。

 朝鮮の太平簫は,基本的な構造は中国の嗩吶と同じだが,下端の朝顔形のふくらみが大きい。軍楽に用いられるほか,今日では農楽でも用いられている。
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百科事典マイペディア 「スルナイ」の意味・わかりやすい解説

スルナイ

オーボエ属の管楽器。西アジアを中心に北アフリカ,ヨーロッパ地中海域,東はインド,東南アジア,中国と,イスラムの勢力が及んだ全地域とその影響圏に広く分布する。円錐形の木製の管にダブル・リードを装着し,基本的には大部分が前面7孔,背面1孔という同一の構造をもっているが,文化圏により名称や大きさ,材質などに微妙な違いがある。近世ペルシア語(イラン)ではソルナー。トルコのズルナ,北インドのシャーナーイ。インドネシアのスルナイ,中国のスオナーなどのようにペルシア語に由来した名称がある一方,チベットのギャリン,タイのピーなどのようにペルシア語から遠ざかっているものもある。アラビア語では,古来ミズマール。今日のエジプトでは大型のものがミズマール・バラディー,小型のものはスイブス。ギリシアではズルナというトルコ名のほかにカラムツァやピピザも。
→関連項目カルナイ哨吶ソルナーチャルメラナガラ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スルナイ」の意味・わかりやすい解説

スルナイ
するない
surnāy アラビア語

西南アジアのイスラム諸国を中心に、北アフリカ、バルカン半島、北インド、チベット、東南アジア、東アジア一帯に分布する気鳴楽器。ダブルリードの木管楽器で、イラクやトルコではズルナ、エジプトではミズマール、インドではシャーナーイなど地域によってさまざまによばれる。基本的形態は、全長30~60センチメートル、円錐(えんすい)状の開口部(口径6~12センチメートル)をもち、指穴は前面に7穴(ときに8穴)、裏面に1穴(ないものもある)、アシの茎や麦藁(むぎわら)製の小さなリードが、吹口(ふきぐち)につけられた真鍮(しんちゅう)の細長い筒に差し込まれている。また、循環呼吸による途切れのない吹奏を助けるために、金属製や木製の小円盤を吹口につけたものも多い。甲高く突き抜けるような音質は野外演奏に適しており、今日でも結婚式、民族舞踊、祭儀、行進などの伴奏楽器として広く用いられている。

[山田陽一]

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