セイウチ(その他表記)walrus
whale horse
Odobenus rosmarus

改訂新版 世界大百科事典 「セイウチ」の意味・わかりやすい解説

セイウチ (海象)
walrus
whale horse
Odobenus rosmarus

鰭脚ききやく)目セイウチ科の哺乳類。1科1属1種。北太平洋と北大西洋に2亜種が分布する。別名カイゾウ。エスキモー語aivuk。上あごの犬歯が特異的に発達した長大なきばをもつ。セイウチの名はロシア語のsivuchに由来する。英語は,ドイツ語のWalrossに由来するが,もともとは古い英語やアイルランド語の海象を意味することばに由来している。北太平洋では,チュコート海,ベーリング海北部,カムチャツカ半島東岸域に分布するが,まれに南に出現し,日本の八戸沖で捕獲された記録もある。北大西洋では,ラプテフ海バレンツ海,スピッツベルゲン諸島周辺海域,ハドソン湾,バフィン島周辺海域に分布する。

 セイウチ科はアザラシ科とアシカ科の中間型をし,前・後肢ともアザラシ科より長く,アシカ科より短く,後肢は前方を向くが,アシカ科のように敏しょうに歩行できない。外皮は荒く,硬い粗毛を有する。体重は雄が1350kg,雌は900kgに達する。体長は雄3.7m,雌3mに達する。体色は薄ねずみ色から茶褐色まで変異が多いが,若い個体ほどねずみ色の度合が強い。本種の特徴であるきばは生後4ヵ月で生え出し,最大は雄で1m,4.5kgに達し,雌は60cm前後で雄のきばより細い。

 集団性が強く,繁殖期,回遊期を問わず集団でいるが,繁殖期を除くと,雌雄は別々の集団を形成し,冬期には海氷の南下に従って南下移動し,夏期には海氷の後退を追って北上する。繁殖期は4~5月,新生子は体長1.2m,体重45kgである。親は2年間子の世話をし授乳も2年間続く。出産は2年に1回である。沿岸海域を好み,強大なきばで海底を掘り起こし,貝などの軟体動物を食べる。貝は肉部分のみを食べ,貝殻は捨てる。生息数は乱獲により激減したが現在は保護により増えつつある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「セイウチ」の意味・わかりやすい解説

セイウチ
せいうち / 海象
walrus
[学] Odobenus rosmarus

哺乳(ほにゅう)綱鰭脚(ききゃく)目セイウチ科に属する海産動物。雄は体長3.6メートル、体重1.6トンに達するが、雌は最大2.6メートル、体重1.3トンどまりである。雌雄とも上顎(じょうがく)の犬歯が離乳のころから牙(きば)として発達し、雄では最長1メートルに達するものもいるが、雌ではやや短い。これがゾウを連想させるため「海象」の字があてられた。耳介はない。皮膚は厚く、しわが多い。子供のときには紫褐色の皮膚に茶褐色の毛が多く生えているが、成長に伴って脱毛し、茶褐色の皮膚を裸出する。吻端(ふんたん)は丸く突出し、太くて短い触毛が密集して生える。四肢とも5指があり、後脚のつめは前指のつめよりも長い。足裏にも毛が生えている。牙で海底の砂を掘って二枚貝を食べる。

 4~6月にかけて交尾が行われ、5月を中心に分娩(ぶんべん)する。多くの子は約2年で離乳し、雌は6、7年、雄は8~10年で成熟し、寿命は約40年である。北極海の海岸や氷上で500頭くらいの群れをつくり、1日の大部分を寝て過ごす。もっとも多く生息しているのはベーリング海峡付近で、冬には海峡の南に集まり、夏は海峡の北に多い。この付近に約14万頭、バレンツ海に数千頭、ラプテフ海に約3000頭、デービス海峡に約1万頭が生息していると推定されている。

[西脇昌治]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セイウチ」の意味・わかりやすい解説

セイウチ
Odobenus rosmarus; walrus

食肉目鰭脚亜目セイウチ科セイウチ属。雄は体長約 3.6m,体重約 1.9t,雌は体長約 3m,体重約 1.2tに達する。出生体長は1~1.2m,出生体重 45~75kg。体毛は粗く茶色を呈し短く,年をとると脱落する。皮膚はベージュ色で,淡い灰青色や茶ねずみ色を呈することもあり,特に腹側と四肢のつけ根が濃い。体はきわめて太く,皮膚が厚く体表全体にたくさんの皺 (しわ) がある。体に比して頭部が小さく,吻端は丸みを帯び,太く粗い触毛を多く有する。耳介はない。門歯は上顎にのみ2本,犬歯は上顎と下顎に各2本,頬歯は上顎と下顎に各6本である。上顎の犬歯は長大で,雄は長さ 70~90cm,雌は長さ約 50cmに達する。索餌場近くの砂浜,岩場や海氷の上で休息し,流氷に乗って移動する。出産期は4月中旬から6月中旬までで流氷の上で出産する。幼獣は2歳頃まで母親とともに行動する。おもにオオノガイなどの二枚貝や巻貝,ゴカイなどの底生動物,動きが緩慢な底生魚類を捕食する。海岸では大きな群れをつくり密集しているが,海上では 10頭以下の群れで出現することが多く,また単独で行動しアザラシや小型のクジラ類を捕食するものもいる。北極域に周極分布する。

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小学館の図鑑NEO[新版]動物 「セイウチ」の解説

セイウチ
学名:Odobenus rosmarus

種名 / セイウチ
科名 / セイウチ科
解説 / 上あごに2本のきばがあり、上陸したとき体を支えるのに使われます。子どもは氷の上で生まれます。
体長 / オス約3.2m、メス約2.6m、最大3.6m
体重 / オス約1200kg、メス約800kg、最大1900kg
食物 / 貝、エビ、魚、アザラシ、イルカ
分布 / 北極海と周辺の海
絶滅危惧種 / ☆

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百科事典マイペディア 「セイウチ」の意味・わかりやすい解説

セイウチ

食肉目セイウチ科の海生哺乳(ほにゅう)類。雄は体長2.9〜3.2m,体重795〜1210kgほど,雌はやや小さい。体に褐色の粗毛があるが,老獣では皮膚が裸出する。成獣の犬歯は雄36〜55cm,雌23〜40cmほどになり牙状。北極海沿岸に分布し,海産の貝類,エビ・カニ類,ゴカイ類などを食べる。1腹1子。過去数千年以上にわたり,エスキモーは肉と脂肪を食用とし,皮でボートやテントを作り,牙で道具を作って生活していた。

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世界大百科事典(旧版)内のセイウチの言及

【きば(牙)】より

…このきばは食肉類のきばよりはるかに鋭い。セイウチの上顎の犬歯は雄雌とも長大で,武器としてより海底から貝を掘り出すためのスコップ,あるいは氷によじのぼる際のピッケルとしておもに用いられる。ゾウの上顎の切歯はきわめて長大で3m以上,マンモスでは4.5mにも達するが,その用途はあまりはっきりしない。…

※「セイウチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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