翻訳|geranium
フウロソウ科(APG分類:フウロソウ科)テンジクアオイ属の総称。植物分類で用いる属名のGeraniumはフウロソウ属のことで、ゲンノショウコやハクサンフウロがこれに属する。テンジクアオイ属には約250種あり、主として南アフリカに分布する。そのうちよく栽培されるモンテンジクアオイ(紋天竺葵)P. zonale Ait.を一般にゼラニウムと称しており、属名のペラルゴニウムでよんでいるのはナツザキテンジクアオイである。
ゼラニウムは半低木状になる多年草で、茎はやや多肉質で高さ30~80センチメートル。葉は互生し、やや厚く、葉面に褐色の馬蹄(ばてい)状の斑紋(はんもん)があるものが多い。花は長い花茎に散形状に多数つき、赤、桃、淡赤、白色、絞りなどがある。四季咲き性で一重のほか八重咲きもある。普通は温室またはフレームで栽培し、鉢、プランター植えにして花や美しい模様のある葉を観賞するが、花壇にも植えられる。改良が進み多くの種類があり、次のように分類される。
ハナゼラニウム系は花が大房状になり、高性で一重、八重咲きがあり、花色が豊富で、もっとも広くつくられている。繁殖は挿木による。一代交雑種系はハナゼラニウムの系統に含まれるが、実生(みしょう)でつくる系統のものである。一代交雑種系は開花までの期間が短く、スプリンター種の仲間は4か月で開花、矮性(わいせい)となる。ドワーフ系は高さ約20センチメートルの矮性種である。ミニゼラニウム系は高さ10~15センチメートルの極矮性種で、小鉢づくりによいが、高温期に弱りやすいために、つくりにくい。ほかに、葉色が美しい観葉種として変わり葉系があり、ツタバゼラニウムは茎は細く地をはって伸び、葉がツタに似ているのでこの名がある。全体がアイビーに似るのでアイビーゼラニウムの名もあり、吊(つ)り鉢に適している。
栽培は排水のよい土を用い、十分日に当て、夏は通風をよくする。冬は5℃以上に保つようにするが、暖地では戸外でも越冬する。
[山口美智子 2020年8月20日]
世界でもっとも多く栽培される鉢花の一つ。ゼラニウム属はリンネが設立したが、1787年フランスのレリティエL'Heritierが、5枚の花弁のうち上部の2枚が小さく、雄しべが5~7本しかない種類をペラルゴニウム属に移し、ゼラニウム属を、花弁が同形で、雄しべが10本の特徴をもつものに限定した。これに伴い、園芸上のゼラニウムはペラルゴニウム属となった。17世紀に当時イギリス領のケープ植民地からオランダに導入が始まり、1687年にはライデン植物園のリストに10種の名があがる。ツタバテンジクアオイは1701年にイギリスとフランスに、モンテンジクアオイは1710年イギリスにもたらされた。イギリスのフランシス・マッスンFrancis Massonはクックの第二次探検隊に参加、1772年南アフリカに上陸し、50近い種を発見、イギリスに送った。イギリスでは19世紀のビクトリア朝に大流行した。日本への渡来は幕末で、花よりも葉の紋が人気をよび、明治と昭和の初期にブームをおこした。1940年(昭和15)の『葉変葵銘鑑(ようへんあおいめいかん)』には118の品種の番付が記載されている。
[湯浅浩史 2020年8月20日]
フウロソウ科の多年草。和名はテンジクアオイ。現在はテンジクアオイ属Pelargoniumとして分類されているが,園芸的には旧属名ゲラニウムGeraniumをそのまま使用している。一般にゼラニウムと呼ばれているものは,南アフリカ原産のモンテンジクアオイP.zonale L.を中心にP.inquinans Ait.などを交配して改良したもので,多くの系統,品種がある。草本質の半低木状となる耐寒性のない多年草で,浅い欠刻のある円状心臓形~腎臓形の葉をつけ,モンテンジクアオイの系統が強く出たものは,葉に褐色輪紋を現すことが多い。茎は多肉質で,茎葉に特有の魚臭をもつ。四季咲性で,花は長く伸びる花茎上に,径2cmぐらいの5弁花を多数,散形状につける。一重咲きのほか,半八重咲・八重咲種もあり,花色も緋赤色のほか,白,ピンク,サーモン,赤紫,藤桃,バラ色など多彩である。高性大房咲きとなる花ゼラニウム系,草丈20~30cmのドワーフ・ゼラニウム系,より小型のミニ・ゼラニウム系,葉色に変化の多い変り葉ゼラニウムfancy-leaved geranium系などのグループがあり,近年は種子繁殖により栽培する一代交配種系もある。これらとは別にP.peltatum Ait.とP.lateripes L'Her.などの交配から改良されたつた葉ゼラニウム(アイビー・ゼラニウムivy geranium)という別グループがあり,これは茎がはうように長く伸びて,葉は革質で5裂し,ときには輪紋を現す。ゼラニウム同様,四季咲性があるが,日本では春~夏によく咲き,それ以後はあまり咲かないことが多い。花色としては赤,ピンク,サーモンピンク,白,藤桃色などがあり,まれに斑入り(ふいり)葉種もある。
一般には4~5月,9~10月に挿木繁殖をし,温室鉢花として栽培されるが,用土は排水のよい粘質土が適し,石灰質を好むため,石灰を加えるとよい。よく日に当てて育てるようにする。肥料はリン酸分を多く施す。窒素分を多用すると茎葉ばかり茂り,花付きが悪くなりやすい。乾燥にはかなり強いが,春~秋はふつうの水やりをした方がよい。冬季は最低10℃以上あれば,冬の間も咲き続けるが,越冬させるだけであれば最低3℃以上あればよく,暖地では露地植えでもよく越冬をする。一代交配種は実生栽培をするが,温室では秋まきをする。温室がない場合には4月ごろに春まきをする。春まきでも秋より咲き始める。花ゼラニウムは鉢植え,プランター植えのほか,春~秋は花壇植えで楽しむのもよく,とくに一代交配種は花壇植えに適している。ドワーフ系,ミニ系は小鉢で楽しむのに適し,変り葉系は観葉植物として楽しむのによいが,冬季とくに葉色が美しくなる。つた葉ゼラニウムは,つり鉢や大きい花鉢に植え,枝を垂らして仕立てるとみごとである。
テンジクアオイ属は,南アフリカを中心に200種以上が知られているが,観賞用に栽培される種のほかに,ゼラニウムオイルを採取するニオイゼラニウムP.×asperum Ehrh.ex Willd.など数種が芳香を有し,利用される。種によって芳香が異なり,パイナップル,リンゴ,ペパーミントなどに似た香りをもつものがある。
→ペラルゴニウム
執筆者:柳 宗民
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…植物学的にはフウロソウ科テンジクアオイ属Pelargoniumの総称とされるが,かつてはフウロソウ属Geraniumとして扱われていたため,現在でも多くの園芸植物が旧学名のゼラニウムの名で呼ばれている。園芸上,ペラルゴニウムといわれるものは,この属の植物のうち,オオバナテンジクアオイP.grandiflorum Willd.やP.cucullatum Ait.,P.angulosum Ait.およびこれらを相互に交配し,改良した,P.×domesticum Bailleyなどの一群の栽培植物をさす。…
※「ゼラニウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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