アオイ(読み)あおい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アオイ」の意味・わかりやすい解説

アオイ
あおい / 葵

普通はアオイ科(APG分類:アオイ科)のタチアオイフユアオイトロロアオイモミジアオイなどを総称してアオイというが、現在では単にアオイという和名の植物はない。アオイの名が日本で最初に表れるのは『万葉集』であるが、これをフユアオイとする説のほかフタバアオイなどとする説もあり、古来より「葵」の概念と扱いには混乱がある。たとえばカンアオイ類はウマノスズクサ科で、近縁のフタバアオイは別名カモアオイ(賀茂葵)ともよばれ、京都の賀茂神社の儀式植物として古くから用いられている。カツラ(桂)の枝に結び付けられて諸葛(もろかずら)として用いられることもあり、『古今和歌集』『枕草子(まくらそうし)』や『源氏物語』にも取り上げられて、現代まで続いている。また有名な「葵の紋」とよばれる徳川家の三葉葵も、フタバアオイの葉を3枚組み合わせて紋章化したものである。

 6世紀の中国の農書『斉民要術(せいみんようじゅつ)』には、野菜の筆頭にアオイをあげている。それをフユアオイとする説が強いが、ツルムラサキとみる中柴新の新説も出されている。なおツルムラサキの代表的な漢名は落葵である。

[湯浅浩史 2020年4月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アオイ」の意味・わかりやすい解説

アオイ(葵)
アオイ

アオイ科のアオイ属 Malvaやフヨウ属 Hibiscusおよびその近縁の属などを総称する名であるが,また単にゼニアオイやフユアオイをさすこともある。ゼニアオイ M. sylvestrisは古く中国から渡来した越年草で,農家の庭などによく植えられる。草丈 60~90cm,葉は長い葉柄があって互生し,円形で5~9の浅い切れ込みをもち,縁には浅い鋸歯がある。5~6月頃,葉腋に直径 2cmぐらいの花を数個つける。花の下には3個の小包葉と5つに分れた緑色の萼がある。花弁は5枚,淡紫色で紫色の筋が目立つ。おしべは集って長い中空の円筒をつくり,その中を細長いめしべの花柱が通る。アオイというのは日を仰ぐという意味に由来するという。

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