前5世紀ころから前3世紀ころを最盛期としてギリシアのボイオティアやアッティカ地方で製作されたテラコッタの小彫像。これらは墓の副葬品,神殿の奉納品,日常の置物として製作された。大彫刻の影響が見られる優れたものが多い。女神,婦人,騎士,楽人,床屋,大工,農夫,子どもなどさまざまな人物像が製作されているが,とくに優美な着衣の婦人小像が有名である。高さは6~7cmから25cm。1870年代初めボイオティア地方東部の小村タナグラ周辺の墓地から多数出土したことにちなんでこのように呼ばれている。しかしその後の考古学上の発掘により,アテナイ,テーバイのほかイタリア南部,小アジアなどギリシア世界のほぼ全域で出土し,その製作地もアッティカ地方,ことにアテナイがその中心地とされている。前8世紀以降の幾何学様式時代ならびにアルカイク時代の,手で形づくった初期の小像を除いて,これらの小彫像は一般に前後に分けた型で作られている。その多くは茶褐色の素地に石灰石の粉末を水で混ぜた泥漿(スリップ)で白く化粧掛けをし,その上に彩色が施されていた。
執筆者:前田 正明
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…一方,これらと異なりボイオティア地方東部のタナグラの墓地から出土した前5世紀ころから前3世紀ころにかけての加彩の小像,および小アジアのミュリナ,スミュルナ,ペルガモンなどで制作されたヘレニズム時代の小像は,神々,騎士,楽人,農夫,職人,婦人,子どもなどさまざまな人物を表している。とくにタナグラ出土の一連の優美な婦人像は,それまでの小像と違って日常的なくつろいだポーズや甘い感傷的な顔だちなど生気に満ち,用途は必ずしも明らかではないが,全体に高い芸術性を示すものである(タナグラ人形)。これに対し,小アジアのミュリナではアフロディテ(ビーナス),マイナス,飛翔するニケなど動きのある像が好んで制作されている。…
…ヘレニズム時代には,モニュメンタルな大彫刻と並んで小さな彫刻作品も多くつくられた。ボイオティア地方の都市タナグラや小アジアのミュリナで大量につくられた素焼土(テラコッタ)製小型女性像(タナグラ人形)は,それ自身芸術作品としての価値を有するだけでなく,失われた大彫刻の様式を探るうえにも,また当時の風俗を知るうえにも,貴重な資料となっている。前2世紀の半ばころからギリシア美術は,クラシックへの回顧の傾向を強める。…
※「タナグラ人形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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