荷電粒子が物質中を通過するとき、その速度が物質中の光速(真空中の光速cを物質の屈折率nで割った値)より大きい場合には、光の放射がおこる。1937年にソ連のチェレンコフが高速電子の場合に実際に光を観測したので、この現象をチェレンコフ効果とよんでいる。荷電粒子の速度をvとすると、チェレンコフ放射は、粒子の進行方向とcosθ=c/nvの関係にあるθの方向におこる。チェレンコフ放射光(チェレンコフ光)を光電子増倍管で検出して、高速の荷電粒子の速度を測定する装置がチェレンコフ計数管で、高エネルギーの素粒子実験では不可欠の測定器の一つである。放出される光を観測するので、物質としては光に透明なもの(水、ガラス、プラスチックなど)や気体が用いられる。物質中の光速(c/n)より大きい速度をもつ荷電粒子を検出する装置およびチェレンコフ放射の方向性を利用して、特定の速度の粒子だけを検出する装置がある。また、東京大学宇宙線研究所の神岡実験における観測装置(カミオカンデ)でのニュートリノの検出で用いる水チェレンコフ装置はこの原理を応用している。
[玉垣良三・植松恒夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1934年,旧ソビエトの物理学者P.A. Cherenkov(Cerenkov)は,ガラスや雲母のような透明な物質をγ線にさらすと弱い青白色の光を発することを報告した.この光は,主としてγ線ビームの方向に放射され,赤から紫外領域の連続スペクトルを有する.この現象に対する説明は,約3年後に旧ソビエトのI. FranckおよびI. Tammらによって与えられた.それによると,チェレンコフ放射は,荷電粒子がある媒質中をその媒質中での光の速度より速い速度で通過するとき,粒子のつくる電場のためにその近くの媒質が分極し,粒子が通り過ぎたのち,もとに戻るときにそこを源として電磁波が放射される,一種の電磁気学的な衝撃波による効果である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…1934年にソ連のP.A.チェレンコフによって予言され,37年にI.タムとI.フランクによって理論的に確かめられた。粒子速度vがその媒質中の光の位相速度(真空中での光速度cを媒質の屈折率nで割ったもの)より大きくなる周波数領域でのみ光が放出され,この放射をチェレンコフ放射Cherenkov radiationと呼ぶ。水中の原子炉燃料棒付近に見られる青白い光はこの放射の一例である。…
※「チェレンコフ放射」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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