ソ連の物理学者。ボロネジに生まれ、1928年ボロネジ大学を卒業。1930年よりレーベデフ物理学研究所の研究員となった。物理学者バビロフSergei Ivanovich Vavilov(1891―1951)の下で、液体中にγ(ガンマ)線を照射すると液体が発光する現象の実験を始めた。当時、液体や固体に高エネルギーの光を照射するとルミネセンスをおこし発光することが知られていた。このころ、弱い光を測定する方法がなく、チェレンコフは暗闇(くらやみ)に慣れた目によって測光し、また液体中でのルミネセンスはそこに混合物が存在することによりおこるので、水を二度蒸留して混合物を少なくし実験した。ところがそれでも発光が見られ、ルミネセンスではない発光がおこっていることが明らかとなった。この発光は、γ線のコンプトン効果によってつくられた超光速電子による電磁的なマッハ波によることがタムとI・M・フランクによって明らかにされ(1937)、「チェレンコフ効果」とよばれるようになった。
この効果を利用したチェレンコフ計数管は高エネルギー物理実験の必需品となった。1958年、タム、フランクとともにチェレンコフ効果の発見と解釈によりノーベル物理学賞を受賞した。
[佐藤 忠]
ソ連の物理学者。ボロネジ大学物理数学部に学んだ後,1930年にソ連科学アカデミーのレーベデフ物理学研究所に入る。ラジウムの放射線が種々の液体に吸収されるときに生ずる現象を研究中,34年,それまで蛍光現象と考えられてきた液体が青く発光する現象が,液体の成分とは無関係に生じ,また蛍光の源となる不純物を除去した水でさえ生ずることを示して,まったく異なる機構による発光現象であることを明らかにした。チェレンコフ効果と呼ばれているこの現象は,その後高エネルギー物理学の実験分野で開発された,粒子エネルギー測定のためのチェレンコフ計数管の装置原理となっている。このほか,電子加速器の開発・建設に努め,光子-原子核,光子-中間子反応の研究を推進した。58年チェレンコフ効果発見の業績により,この現象に対して電磁気学的な説明を与えたソ連のフランクIl'ya Mikhailovich Frank(1908-90),タムIgor'Evgen'evich Tamm(1895-1971)とともにノーベル物理学賞を受賞した。
執筆者:日野川 静枝
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