改訂新版 世界大百科事典 「チッペンデール」の意味・わかりやすい解説
チッペンデール
Thomas Chippendale
生没年:1718-79
イギリスの家具師,家具デザイナー。フランスの王朝風の豪華な家具にかわって,ジョージアン期(ジョージアン様式)のロンドンの市民生活にふさわしい品位と実用性を重視した家具を製作した。また家具製作を近代産業として組織づけ,企業家として才能を発揮した。ヨークシャー,オトレーの指物師の家に生まれ,徒弟修業後1748年にロンドンに出て独立,54年ころ家具産業の中心地セント・マーティン通りに移って,商館,事務所,工場,倉庫を建設し,多数の専門職人による本格的な家具製作と,上流階級の室内設備や装飾の施工も行った。71年には家具師ヘーグThomas Haigと組み,〈チッペンデール・ヘーグ商会〉と命名し事業を拡大した。一方,彼は54年に家具に関するデザイン書《紳士と家具師のための指針The Gentleman and Cabinet-maker's Director》を出版し,160枚の図版と解説によって,フランスのルイ15世時代のロココ様式を基調とした家具と室内装飾のデザインを種目別に紹介した。チッペンデールがイギリスのロココ様式の代表的な家具師として名声を博したのはこの書の出版による。彼の家具デザインの特徴はロココ様式のほかに,ネオ・ゴシック様式(ゴシック・リバイバル)やシノアズリー(中国趣味)も含まれていることである。家具材料にマホガニーを取り入れ,精巧な彫刻でリボンの結び模様を背もたれの意匠に取り入れた椅子,中国の組椅子を背もたれの意匠としたチャイニーズ・チッペンデールと名づけられた椅子などを創案した。70年代からは新古典主義の建築家ロバート・アダム(アダム兄弟)が設計したヨークシャーのヘアウッド邸やロンドン郊外のオスタレー邸などに,マホガニーを用いた新古典様式による精巧な家具を製作した。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報